イラク北部アルビル派遣日赤医師 報告会見 2017.5.31

壇上左から、高尾亮氏(熊本赤十字病院麻酔科医)、井上芳門氏(名古屋第二赤十字病院麻酔科医)、渡瀬淳一郎氏(大阪赤十字病院救急医)、杉本卓哉氏(熊本赤十字病院外科医)

 4人は今年2月からイラク北部で紛争に巻き込まれた住民を治療した。「自宅を爆撃された家族は、強く臭う黒い液体をあび顔がむくんでいた。化学剤を含む爆弾だと思う」。「患者の傷を撮影していたら『もっと撮って世界の人に知らせてくれ』と言われた」。生々しい報告が続いた。

司会 傍示文昭 日本記者クラブ企画委員(西日本新聞)
https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/34848/report

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
記者による会見リポート

「イスラム国」掃討の最前線から

イラク第2の都市モスルでは、昨年10月から政府軍などにより、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦が続いている。激しい戦闘は、多くの市民の犠牲を伴う。赤十字国際委員会(ICRC)の活動の一環として現地で医療支援にあたり、帰国したばかりの日本人医師4人がその様子を報告した。活動場所は、モスルから東に80キロのアルビルの病院だった。

4人の中で一番長い期間、2月19日から5月29日まで従事した熊本赤十字病院の外科医、杉本卓哉さん(38)によると、約3カ月で大小400件の手術を行ったという。患者が多いときは、日付が変わるまで手術を続けたこともあったという。

大阪赤十字病院の救急医、渡瀬淳一郎さん(50)は、化学兵器が使われたとみられる事例を生々しく報告した。モスル東部に住む、夫婦と子ども5人の7人家族で、自宅が爆撃に遭い、黒い異臭を放つ液体にまみれたという。世界保健機関(WHO)による除染も受け、院内に運ばれた。化学剤の種類は特定できないものの、顔のむくみ、嘔吐、せき、白血球の減少など特徴的な症状があった。このためICRCは非難声明を出した。次女は一時、集中治療室に入ったが、約2週間後に全員、回復して退院したという。

記者からは、「どの勢力による攻撃と考えられるか」などの質問も出たが、渡瀬さんは「それを探索する立場にないし、目の前の患者を治療するのが仕事」とだけ答えた。ICRCは、紛争地において、どの勢力からも中立・独立の立場を堅持することを信条としているので、無理もないだろう。

渡瀬さんは、患者の家族の承諾を得て患部の写真を撮りながら「傷に塩を塗るような行為では」とも考えたという。しかし、家族からは「写真を撮って、何が起きているのか世界に伝えてほしい」と言われ、「これも使命だ」と痛感したと話した。

危険な紛争地で人道支援に尽くす医師たちにエールを送りたい。

朝日新聞社論説委員
平田 篤央

powered by Auto Youtube Summarize

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事