ロシアによるウクライナへの侵攻は“市街戦”へと発展し、軍事施設のみならず、空港や市民の居住エリアにも戦火が広がっています。停戦が見通せない中、世界中から懸念と非難の声が上がっているのが、核施設への攻撃です。なぜロシア軍は“一歩間違えれば大惨事を引き起こす”核関連施設を次々に攻撃するのか。専門家を交えて解説します。
■ロシア軍が次々に核関連施設を制圧
井上貴博キャスター:
ウクライナ政府が「ロシア軍にチェルノブイリ原発の全ての施設と周辺地域を占拠された」と発表したのが2月24日でした。さらに、3月4日、ロシア軍が攻撃し制圧したのがザポロジエ原発。続いて、3月6日、ハリコフにある「国立科学アカデミー物理技術研究所」という核燃料がある研究所が攻撃を受けました。原発ではなくて技術研究所、とは一体どういう場所なのか調べてみますと、原子力など様々な分野を400人以上の科学者が研究しているところです。旧ソ連時代に核技術開発のために搬入された核物質を保管しています。防護システムなどには日本の技術力、
支援・研究も入っているということです。ウクライナ原子力規制監督当局は「複数の施設が破壊されたり、損傷したりした」としていますが、放射線もれなどについての言及はありません。1928年に設立された施設です。
■プーチン大統領はアメリカを痛烈に批判
そして、2月24日、ウクライナ侵攻直前のプーチン大統領の演説を見ていきます。一部抜粋したものです。
アメリカを痛烈に批判しているくだりがあります。「(ソ連が崩壊後)、国連安保理の承認なしにベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた」と述べています。そして、中でも特別なのは、イラク侵攻だということで、「口実とされたのはイラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報をアメリカが持っているとされていることだった。後になってそれは全てデマであり、はったりであることが判明した」とアメリカがこう言ってたけれども、嘘だったじゃないか、と言っているわけです。「私達の国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、絶対に受け入れられない。脅威を作り出すことになるだろう」我々は自分の地域を守る、今やっていることは平和を守るためなんだということ、ロシア国内にもこういったメッセージが報道されているわけです。
■「我々は止めようとしている」というロシア側の論理
核についてどうメッセージを発しているのか、ロシア側です。5日、プーチン大統領は「ウクライナは今、核保有国としての地位を獲得。つまり核兵器の取得まで口にし始めた。我々はそれを見過ごすわけにはいかない」と述べました。つまり、悪いのはウクライナなんだと、我々ロシアはそれを止めようとしているだという論調です。
また、ザポロジエ原発を攻撃については、6日のマクロン大統領との電話会談で、この攻撃は我々ではなくて、ウクライナ側の過激派による挑発行為だとしました。
チェルノブイリ原発に関しても、6日、ロシアの複数のメディアは「ウクライナ側がチェルノブイリ原発で放射性物質を撒き散らすダーティーボム(汚い爆弾)を製造しようとしていた」と報道。我々はそれを止めたんだということですが、これらの証拠を示すことはありません。ですが、こういう情報がロシア国内で報道されているということに他ならないわけです。
■ロシアが原子力施設で探しているもの
ホラン千秋キャスター:
私達が最も注目すべき点はどの部分になるでしょうか?
笹川平和財団 畔蒜泰助主任研究員:
ロシア側がここのところ原子力施設を抑えにかかっている。そしておそらくそこから何らかの証拠を見つけて、それを要するに今回の軍事侵攻のある種口実に使おうとしてるんじゃないかという、これが今我々が一連の流れの中で徐々に理解しつつある現状なんじゃないかと思うんですね。
ホランキャスター:
そうするとプーチン大統領が演説の中で、アメリカのイラク戦争のときの大量破壊兵器あれはデマだったじゃないかと言及していたんですが、これを持ち出すということは、仮にウクライナ側で核兵器のようなものが見つからなかったとしても同じだったと言いたいのか、それとも、アメリカはデマでしたよね、でもロシアは見つけましたよと言いたいのか、どういう意図であれを持ち出したというふうに思われますか?
笹川平和財団 畔蒜泰助主任研究員:
おそらく、ロシア側は見つけたっていうふうに言い張るんだと思うんですよね。それはあくまでも。ただし、もう一つ裏にあるのは、半ばアメリカも同じことやったじゃないかということで、我々はちゃんと見つけたよって間違いなく言うと思うんですけど、でもアメリカも同じようなことをやってますよねっていう、あてつけのようなことも同時にやっているというような気がしますよね。
■ウクライナには今核兵器が存在するのか
井上キャスター:
では客観的にどう見るべきなのか。2017年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO「ICAN」はウクライナの核兵器について公式ホームページにこう綴っています。1991年にソ連が解散したとき、数千の旧ソ連の核弾頭、数百の大陸間弾道ミサイルと爆撃機がウクライナ領土に残されたのは事実である。その後、1994年にウクライナは核不拡散条約に加盟し、2001年までに全ての核兵器はロシアに移送。発射台は廃止されている、というふうにしています。
また、IAEA(国際原子力機関)事務総長のコメントとして「長年にわたりIAEAはウクライナの核プログラムを監視下に置いている。平和的利用に限られ、疑わせるような情報は何も手にしていない」と3月3日付けのウォールストリートジャーナル紙に記載されています。
ホランキャスター:
本当にこの核という点についてはもちろん、ウクライナ、ロシア両国のみならず世界各国が本当に不安を抱えている状況ですよね。
田中ウルヴェ京 メンタルトレーニング指導士:
核保有国が互いに核を持っていることによって安全保障が保たれるようにしているということが今の状況ですけれど、例えば、私の息子や娘はヨーロッパに住んでいます。大学生ではありますが、本当にウクライナのことを話さない日はないというふうに言っています。特にそのときに、そもそも核ってどういうふうにしていくべきなんだろうか、というようなことも話している中で、実は一番重要なことはロシアの事情も、そしてNATOの事情もどちらもしっかり私達が知っていく。でもやはり客観的な事実は何なのかということを冷静に判断することが改めて重要なんだというふうには思っています。
井上キャスター:
プーチン大統領は「我々の要望が通らない限り続けるだろう」と話しています。ということはやはりプーチン大統領は一歩も引く気はないということですか。
笹川平和財団 畔蒜泰助主任研究員:
私はそう思いますね。というのはこの問題はもう既に、ロシア国内においてある種プーチン体制の存続を大きく左右する問題になってしまっていますので、ここで引くと逆にプーチン政権の今後の安定性に大きく影響を与える可能性も高いので、プーチン大統領はこれはやり抜く覚悟だと思いますね。
(07日17:52)
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