「ガソリンは少量でも重症化」京アニ事件・青葉被告の元主治医語る…火災のやけど治療(2021年12月21日)

大阪・北新地で起きたビル放火殺人事件の谷本盛雄容疑者(61)が、参考にした可能性がある京都アニメーションの放火殺人事件。この事件では青葉真司被告自身、全身にやけどを負いました。その被告の治療にあたったのが鳥取大学医学部附属病院救命救急センターの医師・上田敬博教授です。ガソリンを使った放火という状況下でのやけどの治療とはどんなものなのでしょうか。12月20日の夜に話を聞きました。

 鳥取大学医学部附属病院救命救急センターの医師・上田敬博教授。「熱傷のスペシャリスト」として、これまで多くのやけど患者を救命してきました。谷本容疑者はガソリンで火をつけた可能性があることがわかっていますが、上田教授はこうした火災での被害は通常とは違うと話します。

 (上田敬博教授 今年12月20日)
 「(Q引火性の高いものによるやけどの治療は難しい?)治療法は同じなんです、ただガソリンの怖いところは、『少量でも重症化』。ガソリンは常温でも蒸発している状態なので、『大気の中で沸騰して燃え広がる』という状態なので、普通の火災の火とはちょっと違う」

 今回の場合、上田教授は火をくぐりぬけて出口に向かえば、全身にやけどを負うものの助かった可能性も指摘します。多くの被害者の命を奪った「一酸化炭素中毒」はそれほど恐ろしいものだといいます。

 一方、重度の気道熱傷、一酸化炭素中毒などで重篤だという谷本容疑者。どんな状態と考えられるのでしょうか。

 (上田敬博教授 今年12月20日)
 「気道熱傷は熱風を吸って、特に声帯といって食道と肺の管が分かれるところに声をだす声門がある。そこが閉じて窒息する。(Q意識が戻ったとしても会話やコミュニケーションは可能なのでしょうか?)心肺停止をしているという話を聞いています。心肺停止してから蘇生するまでの時間が長ければ長いほど、高次機能障害という脳の障害が残りますので、一命をとりとめたとしても会話ができない状態、あるいは認識できない状態になる可能性は十分高いと思います」

 谷本容疑者が参考にした可能性がある京都アニメーションの放火殺人事件で、青葉真司被告は全身の9割以上をやけどして、上田教授はその治療にあたりました。

 (上田敬博教授 去年8月)
 「基本的には(熱傷面積が)90%を超えているので、『救命することはできない』というのが正直なところでしたし、関係者の方にも『ちょっと期待には応えることができないかもしれない』と最初は話をしていました」

 通常の治療では、患者自身の他の部位から皮膚をとり、やけど部分に移植しますが、青葉被告は斜めにかけていたカバンのストラップの裏に沿うようにわずかに皮膚が残るのみでした。

 そこで取られたのが『人工真皮』による治療です。残った皮膚を取り出して培養し、完成するまでの3~4週間は動物のコラーゲンからとった人工の皮膚で全身を覆い、皮膚が完成したら貼り替える方法です。

 当時の青葉被告への治療の状況について上田医師は次のように話しています。

 (上田敬博教授 去年8月)
 「きょう、あす、絶命してもおかしくない状態がちょうど4週間続いた。5回目の自家培養表皮の植皮が終わった時点で、血圧を上げる薬が切れて、尿が出だして、人工透析を離脱できるところまできました。『喜び』というよりも『やれやれ』というのが、正直なところですね」

 (上田敬博教授 今年12月20日)
 「(Q青葉被告の治療にあたっていたときに先生はどういうことを思っていましたか?)最初はとにかく彼が何者であるかは関係なくて、その当時は『絶命しそう、その日でだめだ』という状態でしたので、ただただ救命すると。それだけですね」

 今回も同じような放火事件で、容疑者への治療が続けられていますが、医療従事者にとって激励の声は何よりも励みになると上田教授はいいます。

 (上田敬博教授 今年12月20日)
 「激励というか、支持してくれているような内容の声が聞こえてきたので、逆に励みになりました。今治療されている医療従事者の方は、目の前の傷病者を救命することに集中しているだけだと思いますので、できればそれをみなさん静観してあげてほしいと思います」

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