3800メートルの海底に沈没した豪華客船『タイタニック号』を探索するツアーで、5人が乗った潜水艇の行方が分からなくなりました。
今から111年前、2200人余りを乗せ、イギリスを出港したタイタニック号。大西洋を越え、アメリカ・ニューヨークを目指していました。しかし、夢の航海は悲劇と化します。客船は氷山に衝突し、沈没。1500人以上が犠牲となりました。
月日が経つとともに、かつての悲劇は歴史となり、時にロマンを呼び起こします。水深3800メートルの海底で残骸が発見されると、沈没船の物語への関心が高まり、レオナルド・ディカプリオさん主演の映画にもなりました。
今月16日、潜水艇『タイタン』を乗せた母船が、カナダのニューファンドランド島を出港。タイタニック号が沈む海域に向かいました。18日、船から降ろされ、海中に沈んでいった潜水艇。海底でタイタニック号を見て水面に戻ってくるまで、通常は8時間ほどとされています。しかし、1時間45分後、連絡が途絶えたといいます。
アメリカ沿岸警備隊:「潜水艇の位置を特定し、乗員を救出するために、連携しながら、あらゆる手を尽くしている」
全部で8日間のツアー。費用は日本円にして約3500万円と、誰もが手に届く額ではありません。運営会社『オーシャンゲート』のストックトン・ラッシュCEOはツアーの魅力について、こう語っていました。
ラッシュCEO:「大階段があった場所をのぞき込むと、シャンデリアもそのままでした。圧巻です。船首部分の窓は無傷でした」
取材で乗ったことがある、米CBSのデビッド・ポーグ記者はこう話します。
ポーグ記者:「海に潜る瞬間は恐怖を感じます。ただ、潜水艇をつくった人も同行し、この3年間一度も事故がなかった。なので安心でした」
潜水艇の内部を見てみると、かなり狭い空間であることが分かります。ここに操縦士を含め、5人が乗っていました。潜水艇には酸素が積まれていますが、4日分と限られています。
搭乗者としてこれまでに確認されているのは、パキスタン人の会社経営者、シャザダ・ダーウッド氏と、その息子。タイタニック号の調査を何度も率い“ミスタータイタニック”との異名を持つフランス人の探検家、P・H・ナジョレ氏。そして、イギリスの実業家、ハミッシュ・ハーディング氏です。
ハーディング氏は、過去に世界で最も深いマリアナ海溝に潜ったこともあれば、アマゾン創業者のベゾス氏がつくった、ブルーオリジンのプロジェクトで宇宙へ行ったこともあるなど、冒険家としての顔を持つ人物です。
経営する会社のツイッターには、ハーディング氏の写真とともに、潜る直前とみられる潜水艇の画像がアップされています。
ハーディング氏が経営する会社のツイッター:「潜水艇は無事に出発し、現在潜水中だ」
さらに、運営会社のラッシュCEOも潜水艇に乗っていたと伝えられています。
アメリカとカナダの沿岸警備隊などが、水深4000メートルまで調べることができるソナーも使い、捜索を行っています。
アメリカ沿岸警備隊:「現場は遠隔地なので、捜索活動は困難を極めます。今回のケースで複雑なのは、これが潜水艦であること。水上と水中の両方を捜索しなければなりません」
過去には、水面に上がれなくなった潜水艇が救出されたこともあります。1973年、大西洋を横断する電話ケーブルの敷設にあたっていた潜水艇。乗っていた2人は76時間にわたって閉じ込められた後、無事引き上げられました。ただ、この時の水深は500メートルほど。今回はタイタニック号が沈む、水深4000メートル近い海域です。
潜水艇に何が起きているのでしょうか。そもそも海に潜ると、母船との通信手段はテキストのみ。搭乗取材した記者によると、通信できるのは母船が潜水艇の真上にいる時だけで、実際3時間ほど連絡が取れなくなったこともあったといいます。
元イギリス海軍少将、クリス・パリー氏:「楽観的な見方では、潜水艇が海上との通信手段を失ったか、実際に不具合が生じたのか、潜水艇は活動を続けながら、母船との連絡が途絶えてしまった。もう一つの可能性は事故です。タイタニックの残骸に接触し、深刻な損傷を受けているのか。今の段階では分かりません」
■全米が注目も…潜水艇の捜索難航
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アメリカ・ワシントンにいる小島佑樹記者に聞きます。
(Q.連絡が途絶えてから2日が経過しました。捜索の進展情報は入っていますか)
小島記者:「現在、アメリカの沿岸警備隊を中心に、カナダや民間業者などの協力も得ながら捜索が続けられていますが、発見に至ったという情報は入ってきていません。アメリカでは、CNNを始め主要メディアが、このニュースを大きく伝えています。というのも、アメリカ人にとってタイタニック号は、特別な存在です。当時としては世界最大、豪華さを極めたタイタニック号には、アメリカの建国から近代化までを引っ張ってきた、アメリカ人の富豪たちも多く乗っていました。それは当時、強さの象徴だったと受け止められています。その強さは、アメリカが当時、目指していたものとも重なり、儚くも沈没してしまったことも相まって、いまだに多くのアメリカ人を魅了し続けています。そのタイタニック号に関わるニュースだということもあって、非常に関心高く、捜索の行方を見守っている状況です」
(Q.捜索はどのように行われていますか)
小島記者:「レーダーやソナーを使った捜索が続けられています。ただ、潜水艇がタイタニック号近くに沈んでいる場合、巨大な残骸が音の反響やレーダーの邪魔をして、位置の特定を難しくしている可能性があります。また、深さ4000メートルとも言われる海底での救助活動には、手段に限りがあります。アメリカ海軍が持つ、遠隔操作できる無人機であれば対応できるのではないかという声もありますが、それを現場まで運ぶのにも相応の船と時間が必要になります。場所が分かったとしても、すぐに助けられない難しさが、現場を悩ませています」
■迫るタイムリミット…原因は
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行方不明となった原因は何が考えられるのでしょうか。潜水艦や船舶工学の専門家である、アデレード大学のエリック・フューシル准教授に聞いたところ、「2つの可能性がある」と指摘しました。
(1)『電源喪失』の可能性
母船との通信手段は、無線やGPSは使えず『音波』のみで、テキストメッセージしか送れません。それが、電源喪失によって通信が途絶えた可能性があるといいます。
さらに、もし電気系統がショートして火災が起きれば、制御システムの不具合だけでなく、有毒ガス発生の恐れもあるということです。
(2)海底で引っ掛かった可能性
海底は真っ暗で、どんなに強力な照明でも数メートル先しか見えないため、タイタニック号のがれきに潜水艇が引っ掛かった可能性も考えられるということです。
潜水艇『タイタン』は深海の水圧に耐えられる設計になっています。引っかかってその場にいる場合は、水圧には耐えられますが、酸素には限りがあります。
救出できる可能性はあるのでしょうか。去年、乗船したCBSのデビッド・ポーグ記者によると「タイタンには7種類の浮上機能が備わっている」ということです。
ただ、フューシル准教授は「バラスト(重り)を捨てて浮上する装置はあるはずだが、すべて電子制御の場合は電源喪失で機能しない恐れがある。海面に浮上できても、電源を喪失して通信手段がなければ、巡回船が偶然発見するのを待つしかない」と、救出の難しさを指摘しています。
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
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