バイオハザード

バイオハザード, by Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki?curid=36488 / CC BY SA 3.0

バイオハザード

バイオハザード(、生物学的危害)とは、有害な生物による危険性をいう。「生物災害」と訳して危険性による災害そのものをいうこともある。古典的には病院や研究所の試料や廃棄物など、病原体を含有する危険物(病毒をうつしやすい物質)を指してきたが、20世紀末からは雑草や害虫を強化しかねない農薬耐性遺伝子や農薬内生遺伝子を有する遺伝子組み換え作物等もこの概念に含まれてきている(遺伝子組換え生物等)。

肝炎ウイルスや結核菌、エキノコックス、プリオンタンパク質といった病原体の培養物やその廃棄物、注射針等の医療廃棄物、生物兵器といった、病原体等を含有する物質を総称して病毒をうつしやすい物質()という。病原体とは感染症の原因物質のことであり、ウイルスや細菌、リケッチア、寄生虫、真菌、プリオンタンパク質等のうち、人畜に感染性を有し、その伝播により市民の生命や健康、畜産業に影響を与えるおそれがあるものを指す。

病毒をうつしやすい物質は過去に幾多の事故や事件を引き起こしており、これがバイオセーフティーの呼びかけやバイオセキュリティー上の規制に繋がっている。世界保健機関(2004年)は『WHO実験室バイオセーフティ指針』を示すなどして、感染防止、漏洩防止(バイオセーフティー)を呼びかけている。輸送にあっては、国際連合が国際連合危険物輸送勧告により、感染性廃棄物を含めて第6.2類危険物「病毒をうつしやすい物質」(Infectious substances; UN2814, 2900, 3373, 3291) としてバイオセキュリティーに配慮するよう勧告している。これらを受け、日本では、特定病原体等などを含有する物質は感染症法・家畜伝染病予防法、感染性廃棄物は廃棄物処理法等、輸送にあっては、危険物船舶運送及び貯蔵規則および航空法施行規則による規制がなされるに至っている。

バイオハザードの歴史は、1876年、ロベルト・コッホが炭疽菌の純粋培養に成功したことに始まる。これ以降、注射針(針刺し事故)やピペット(菌液を吸い上げる際の誤飲)を介してチフス菌、ブルセラ菌、破傷風菌、コレラ菌、ジフテリア菌と、実験室感染が毎年のように相次ぐこととなる。

20世紀半ばに至ると、米ソ冷戦により生物兵器研究が活発化し生物兵器研究者をバイオハザードから守るべく、軍事研究においてバイオセーフティーが発達することとなった。民間においては1967年8月、西ドイツのマールブルグにおいてウガンダのアフリカミドリザルを解剖中、マールブルグ病に感染、7名の死者が出る惨事があり、これを契機に、民間にもバイオセーフティーの必要性が認知されることとなった。しかしこの後もバイオハザードによる感染事故は相次いだ。1978年、英国バーミンガム大学において、天然痘ウイルスがエアロゾルとなって空調に漏洩して棟内感染、2名の死者(感染したバーミンガム大学技術者ジャネット・パーカーと、ウイルスを漏洩させ自殺した天然痘世界的権威ヘンリー・ベドスン)を出した。そして1979年には、炭疽菌が旧ソ連スヴェルドロフスクの生物兵器研究所から市街に漏洩し、96名が感染、66名が死亡するという大惨事が発生した。
過失による事故が多発する一方、20世紀末には、故意による事件が発生し始める。日本ではオウム真理教が1990年にボツリヌス菌の大量散布を試み、1993年には炭疽菌の大量散布を試みたが(亀戸異臭事件)いずれも失敗に終わった。米国では2001年、炭疽菌の入った手紙が米国の報道機関や議員宛てに送りつけられ、22名が感染、うち5名が死亡した(アメリカ炭疽菌事件)。

遺伝子組換え生物の危険性は、1974年、ポール・バーグによる「Berg書簡」等で指摘され、『サイエンス』誌等でその検討が呼びかけられた。発がん遺伝子が大腸菌に入ると危険かもしれないという指摘であった。遺伝子組換えは原子力事故と同じような危険性を孕んでおり、アシロマ会議ではどのようにすれば研究を安全に行えるかが話し合われた。この結果を受け、日本では『組換えDNA実験指針』が取りまとめられた。

以来、遺伝子組換え生物等のバイオハザードについてはこの組換えDNA実験指針を以て安全管理が呼びかけられていたが、2004年に遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称「カルタヘナ法」)が施行されてからは、罰則のついた法的な規制が敷かれている。

前述のとおり、実験室や輸送容器等からバイオハザード物質が漏洩すると、甚大な被害に至ることがある。これを防ぐために施される拡散防止措置を封じ込めと呼ぶ。取扱い生物を列挙し、感染症法や世界保健機関等の示す指針に従って等級(リスクグループ)を割り出し、必要な管理等級(x種病原体等取扱施設、BSLx、Px等)を決定、推奨事項の履行を検討し、実験室を設計、従業員に作業・運営に関する教育を施す。実験室の設計等にあっては、感染症法の特定病原体等取扱施設要件やカルタヘナ法の規程の定める防犯(#バイオセキュリティー)にも配慮が必要である。

バイオハザード物質の漏洩を物理的に防ぐことを物理的封じ込めという。具体的には、差圧の確保や滅菌器の設置、更衣、手洗い、マスクの着用などである。バイオハザード物質を危険度により分類し、それぞれに必要な拡散防止措置を定める。より危険なバイオハザード物質を扱う部屋ほど、多くの対策が必要となる。

世界保健機関(2004年)はリスクグループの設定基準は示しているが、具体的にどの生物がどの等級に属するかは示していない。日本の法令では、感染症法で特定病原体等が指定され、また危険物船舶運送及び貯蔵規則・航空法施行規則が準拠する国際連合危険物輸送勧告により指定感染性物質が定められている。これに準拠したうえ、家畜伝染病予防法の法定伝染病・届出伝染病、植物防疫法の指定有害動植物、国立感染症研究所(2010年)や日本細菌学会(2008年)の規程・指針などを参考に、法定外のバイオハザード物質についてもリスクグループを各国・地域で指定・策定する。日本における病原体等のリスク指定としては、国立感染症研究所(2010年)と日本細菌学会(2008年)によるものがある。

日本における法定分類は、感染症法と国際連合危険物輸送勧告である。感染症法では、生物テロに使用されるおそれのある病原体等であって、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体等が「特定病原体等」に指定されている。
輸送にあっては、上記特定病原体等のほか、国際連合危険物輸送勧告)に定められた「病毒を移しやすい物質」を輸送する際は、危険物船舶運送及び貯蔵規則・航空法施行規則に従って包装・輸送しなければならない。

日本において法的要件として準拠しなければならないのは、感染症法の特定病原体等取扱施設の施設要件と、国際連合危険物輸送勧告に準拠した危険物船舶運送及び貯蔵規則・航空法施行規則の包装要件、遺伝子組換えにあっては加えてカルタヘナ法の拡散防止措置要件の3要件となる。施設要件と包装要件の決定に必要な病原体等の分類は下表にまとめた。カルタヘナ法の拡散防止措置要件の決定に必要な微生物等の分類表は、研究二種省令に基づき認定宿主ベクター系等を定める告示を参照されたい。

以上の法的分類に該当する病原体等を含有する病毒をうつしやすい物質は、法律に基づく施設要件等を満たさなければならない。その他の病原体等にあっては、従来通りバイオセーフティーレベルに基づく管理を行う。
バイオハザード物質の開封・操作は、専用の実験室が必要となる。二種病原体等であれば二種病原体等取扱施設で、クラス3の遺伝子組み換え動物であればP3A飼育区画で等、扱う生物の危険度に対応する管理等級の実験室で開封・操作する。病毒をうつしやすい物質は特定病原体等取扱施設(四種病原体等取扱施設~一種病原体等取扱施設)・バイオセーフティーレベル(BSL1~BSL4)、遺伝子組換え生物はP1~P4(微生物)、LSC・LS1・LS2(微生物大量培養)、特定飼育区画・P1A~P3A(動物)、特定網室・P1P~P3P(植物)といった管理等級である。

なお、上表において、...

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