刑務所で働く刑務官。いま、そのなり手不足が深刻化していて、刑務所では人材確保に必死です。受刑者と向き合う日々の仕事の様子と、ちょっと変わった採用活動を追いました。
札幌市東区にある札幌刑務所には、約740人の男性受刑者が収容されています。窃盗や覚醒剤使用による受刑者が多く、平均刑期は3年2か月です。
受刑者の食事の用意をするのも、また受刑者です。30人以上が作業に当たり、女性受刑者が収容される札幌刑務支所の分も含め、約1000人分を調理しています。
札幌刑務所では約740人の受刑者に対し、約350人の刑務官が働いています。炊事場を担当する7年目の男性刑務官。大人数での作業に加え、物陰が多く死角になりやすい炊事場で常に目配りを欠かしません。
完成した料理を確認します。
この日の昼食は長野県の郷土料理「ひんのべ汁」。全国各地から収容される受刑者のため、さまざまな地域の料理を取り入れるなどの工夫をしています。主食は白米と麦が7対3。1日の食費は1人当たり543円ほどです。
食事がまず運ばれるのは意外な場所でした。
「入ります、検食お願いします」(男性刑務官)
入っていったのは所長室。異物の混入や食中毒の恐れはないか、刑務所長が検食をします。
「限られた食材で、工夫してやっていますね」(刑務所長)
「ありがとうございます」(男性刑務官)
検食が終わると配膳です。その際、行われるのが身体検査。受刑者が炊事場から何か持ち出していないかチェックします。
社会のために働きたいと刑務官になった男性。最初は戸惑いもありました。
「自分より年上の受刑者が多いし、先入観で犯罪者という気持ちはあった。最初は恐れることがあった」(男性刑務官)
しかし、受刑者が懸命に作業に取り組む姿を目の当たりにして、考えが変わったといいます。
「今回を機に犯罪をしないようにと強い意志を持って、高齢だが重労働にも耐え出所を目指して頑張っている。受刑者を後押しして、刑務所に戻ってくることのないように接したい」(男性刑務官)
刑務所では出所前に就職先を決めるなど、社会復帰の支援にも力を入れています。
受刑者を更生させ再出発へと導く刑務官。しかし、2019年には全国で1万人を超えていた応募者が、この5年で約3分の1に激減しています。刑務所の人事担当者は、背景に「公務員離れ」があるとみています。さらに。
「刑務官は警察官と間違われやすい。刑務官がわからないという方も多い」(人事担当者)
警察官の採用試験などと日程が重なると、そちらに受験生が流れてしまうこともあるといいます。
認知度アップのため、初めての試みを行うことに。
札幌市中央区の商業施設「ココノ ススキノ」のオープンラジオスタジオで、刑務官の魅力を発信する番組を放送するのです。タイトルは「刑務官ってなあに?」、略して「ケムナニ」です。
「緊張するが今の自分の気持ちや仕事内容を伝えて、少しでも興味を持ってもらえたらと思う」(男性刑務官)
炊事場を担当する7年目の刑務官。しっかりアピールすることはできるのでしょうか。
放送が始まりました。
「刑務所の中の『炊場』という食事を作る工場の副担当をしています。受刑者がいま悩んでることや、受刑者同士の人間関係などを解決するように心がけています」(男性刑務官)
ラジオブースの外では足を止めて聞き入る人の姿も。
「ぜひ、採用試験を受けてほしいと思います」(男性刑務官)
1時間30分に及ぶ生放送が終了しました。出演した感想は。
「緊張したが、言いたいことを言えたと思う。この場所でパンフレットを持ってくれた人がいたので、少しは意味があったのかなと思う」(男性刑務官)
刑務官のなり手不足解消のため行われた、全国的にも珍しい取り組み。人材確保の一手となるのでしょうか。
取材後記
【取材を終えて】
今回の取材を通して、刑務所が抱える受刑者の高齢化という現状と、それに対峙する刑務官の将来像が見えてきました。
札幌刑務所を訪れる前は暗く閉鎖的な雰囲気かと思っていましたが、実際の所内は白を基調として窓が多く、日光が差し込み明るい印象でした。
しかし、全ての窓に鉄格子が取り付けられていて、ここが刑務所であることを思い知らされます。
特に目を引いたのが「機能向上」のための工場でした。
白髪で痩せた高齢の受刑者が取り組んでいたのは「塗り絵」です。
この他にも、タブレットを使って「間違い探し」などの脳トレをしたり、「折り紙」をしたりすることで認知機能の向上を図っています。
また、トレーニング器具を用いて身体機能の向上にも取り組んでいます。
まるでリハビリ施設のようですが、これも刑務作業のひとつです。
洋裁や金属加工など通常の作業が困難になった高齢受刑者向けに、2022年から始まりました。
札幌刑務所に収容されている受刑者の平均年齢は51歳8か月。
60歳以上が2割以上を占めていて、最高齢は85歳です。
高齢化が進む刑務所内で、受刑者に義務付けられた作業を行うための苦肉の策なのです。
2025年からは拘禁刑が導入され、従来の刑務作業が義務ではなくなります。
再犯を防止するための教科指導や更生プログラムなどと、刑務作業を組み合わせて実施できるようになり、個人に応じた処遇に重点が置かれます。
こうした新しい取り組みには人手が必要です。
現場の刑務官は「受刑者個人と向き合えるようになる」と話す一方で、「やらないといけないことも増えるだろう」と不安を口にしていました。
変わり始めた刑務所で、共に働く仲間を求め行ったラジオ放送。
苦悩する刑務官の姿が繁華街「ススキノ」の若者にどう映ったのか。
その効果に期待したいです。
(取材:福岡 百)
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