【報ステ】天井なき監獄での“異例デモ”と失われた後ろ盾が理由?ハマス大規模攻撃(2023年10月9日)

ガザ地区を実効支配するイスラム組織『ハマス』が7日、イスラエルに大規模な越境攻撃を行いました。この攻撃で、音楽祭に集まっていた多数の住民が犠牲になったほか、観客の一部は人質に取られています。これに対し、イスラエルは50年ぶりに宣戦布告を行い、これまでに双方の死者は合わせて1200人を超えました。

次々とイスラエルに撃ち込まれるロケット弾。その数は5000発とも言われています。迎撃システムの『アイアンドーム』が発動しましたが、ガザ地区から数十キロ離れたテルアビブ、そしてエルサレムでも、その一部が着弾しました。

ハマスによる攻撃がこれまでと違ったのは、1000人以上の戦闘員を越境させたことです。

ハマス司令官:「『敵』は裁きを受けずに、破壊し続けられないと知るべきだ。ここに『アクサの洪水』作戦の開始を宣言する」

「アクサ」は、エルサレムにあるモスクの名前で“洪水のごとく攻撃する”という意味と捉えられています。

ハマスの戦闘員は今回、少なくとも7カ所からイスラエル側に侵入。その後、軍施設だけでなく、民間施設や一般住宅も襲撃しました。一番の犠牲者が出たのは、境界線から3キロほど離れたレイムでした。当時、ここでは音楽フェスが行われていましたが、ハマスの戦闘員たちは、ここに空と陸の両方から襲来。逃げ遅れた人たちを次々と殺し、遺体の数は260に上ったと発表されています。

CNN ウォード上席特派員:「ダンス・パーティーが開かれていた、レイムに近付いています。向こう側に銃撃を受けた数々の車両が見えます。今も行方が分からず、亡くなった方も多いようです。正確な数字を把握することが難しくなっています」

今回のハマスによる攻撃では、集団農場で大量虐殺のあとが確認されるなど、最初から民間人を標的にしていた形跡があります。犠牲者は少なくとも700人。その動画や画像はSNSを通じて拡散されていて、どれも見るに堪えられないものばかりです。また、外国人を含む100人以上がガザ地区側に連れ去られていて、その安否は分っていません。

人質の家族:「妻のドロン、娘のラズとアビブは、それぞれ5歳と2歳です。ハマスにお願いしたい。家族を傷付けないでくれ。子どもや女性に危害を加えないでくれ。私が代わりに人質になってもいい」

一方のイスラエル側。即座に報復攻撃を開始しました。

イスラエル ネタニヤフ首相:「私たちは戦争状態にあり、国民に結束を呼び掛けます」

イスラエルメディアによりますと、ガザ地区への空爆は9日朝までで1149回に上るといいます。昼夜問わず、そして、銀行など民間施設もその標的になっています。ハマスの指導者シンワル氏が殺されたとの情報もありますが、ガザ地区での民間人を含む犠牲者は560人と発表されています。

今回のハマスの攻撃、指摘されているのはイランの関与です。

アメリカ ブリンケン国務長官:「ハマスはイランと付き合いが長く、イランから長年の支援がなければ、現在のように立ちまわれないでしょう。イランが今回の攻撃を指示したり、裏で糸を引いているとの証拠はまだありませんが」

また、動機については…。

アメリカ ブリンケン国務長官:「サウジアラビアをはじめ、国交正常化に関心を持つ国々が、イスラエルと結びつくのを妨害するのが動機であっても驚きではありません。十分考えられます」

イスラエルは近年、中東諸国との関係を改善させていました。大国サウジアラビアとの国交正常化も、間もなくとされていました。

イスラエル ネタニヤフ首相:「私たちは近隣諸国との間の障壁を取り払うだけでなく、UAE・サウジアラビア・ヨルダン・イスラエルを経由して、アジアをヨーロッパにつなぐ平和と繁栄の新たな回廊を建設する」

ネタニヤフ政権は、自治区での入植を強化するなどしてきた右派政権です。そんなイスラエルと中東諸国が手を結べば、パレスチナ国家樹立は遠のきかねません。今回の越境攻撃はいわば、その流れに“くさび”を打ち込んだ形です。ただ、その行為はイスラエル軍に地上侵攻をする口実を与え、ガザ地区の人たちに新たな犠牲を強いることになります。

NGO『ピースウィンズ・ジャパン』パレスチナ人スタッフ ハデルさん:「ガザ地区への地上侵攻となれば、過去の“炎のリング”を思い出します。イスラエルが目の前のものを手あたり次第、破壊する攻撃です。家屋でもなんでもです。一夜にして数百人の無実な人々が殺害されました」「昨晩、住む場所を追われた人たちが、学校やシェルターへ避難しましたが、国連も関わる場所だったのに爆撃されました。死を間近に感じるのは、これが初めてです。本当に今までの戦闘で最悪です」

◆エルサレムは今“これまでとは違う”

エルサレムにいる、伊従啓カイロ支局長に聞きます。

(Q.現在の様子を伝えてください)

伊従カイロ支局長:「私は今、エルサレムの旧市街地にある城壁の前にいます。この近くにシェルターがあるため、この場所から中継をしています。普段は観光客などで込み合っている場所ですが、今は閑散としています。学校は休みになっていて、お店も閉まっている所が多くあります。普段なら、働きにくるパレスチナ人がエルサレムに流入することが禁止されていて、異例なことが起きています。我々が到着する30分ほど前に、ロケット弾が発射されたということで、サイレンが鳴り響いたということです。エルサレムはユダヤ人やアラブ人も住んでいて、観光客も多くいて、普段は絶対にターゲットにならない街です。そうした街にも7日からロケット弾が発射されていて、地元の人も『異例のことが起きている』と話していました」

(Q.今回のハマスの行為は、アラブの人たちにどう受け止められていますか)

伊従カイロ支局長:「今回の事態について、ハマス側が仕掛けたと伝えられていることが多いかもしれませんが、アラブ世界の人々にとっては全く逆です。そもそもの発端は、イスラエルがこの場所に国をつくって、パレスチナの人々の土地と家を奪って追い出したことに対する戦いだと捉えられています。私が話したヨルダン人の男性は『例えパレスチナ側に多くの犠牲者が出ようとも、イスラエル、そしてイスラエル軍に対して打撃を与えることができた。こうしたことが大切なんだ』と感情的に話していました。かたや、イスラエル側では、今回、多くの住民が拉致され、ガザに連れ去られたことに怒りを感じている人が多いです。国境警備隊のイスラエル兵は『これからハマスをたたき潰す』と感情的に語っていました。双方の感情が非常に高まっている状態で、例えば1カ月ほどで収束というのは難しいと感じています」

◆ガザ地区を実効支配するハマスとは

元カイロ支局長の大平一郎デスクに聞きます。

(Q.今回のハマスの攻撃に対して、パレスチナの人々はどういう感情を抱いていると思いますか)

大平デスク:「まず、一般市民を無差別に殺害したハマスは糾弾されるべきです。ただ、パレスチナの人々にとってみれば、数十間、同じような被害を繰り返し受けてきたという思いがあると思います。ハマスを支持していなくても、イスラエルに一矢報いたという感情を持っていると思います」

ハマスは、1987年にパレスチナ住民で広がった“反イスラエル闘争”を機に結成された組織です。2006年のパレスチナ自治政府の選挙で勝利をおさめ、議会では過半数を占めていて、2007年にはガザを武力で実行支配しています。

イスラエルの打倒を目的としているため、中東和平を目指すパレスチナ自治政府とは対立関係にあります。パレスチナ自治区には、ガザ地区とヨルダン川西岸地区がありますが、それぞれ別の自治政府といっていい状況です。

(Q.ガザに住む人にとって、ハマスはどういう存在ですか)

大平デスク:「ハマスには、今回の攻撃を遂行した軍事部門を持っていますが、一般市民への福祉・医療支援を地道に行ってきました。そういった成果もあって、ガザでは2000年代に入って、高い求心力を得ました。この背景にあるのが、ガザが置かれている“極限の困窮状態”です。私は2009年ごろ、イスラエルの軍事侵攻があったガザを取材しましたが『破壊された自宅があっても、建て直すことができない』と話していました。周りは壁に囲まれ、海も封鎖され、建築する資材は入ってこれない状態で暮らしていました。病院に行けば、十分な薬もなく、手術をする機材もない状態でした。特に若者の大半が失業していて、将来の見通しも立たない、希望がない状態のなかで、一縷の望みを託されたのが、ハマスでした」

ガザ地区は完全に壁で囲まれ、海側も封鎖され、「天井のない監獄」とも呼ばれています。今回のハマスによる攻撃は、壁を越えてイスラエル側に侵入しました。陸上の部隊だけではなく、パラグライダー部隊や、地中海を通ってボートを使った攻撃も行われました。ハマスの軍司令官は、5000発のロケット弾を発射したと発表しています。これまでと大きく違うのは、境界線の複数の検問所に対する直接攻撃が、連携をとって行われ、壁を越えて侵攻が行われたところです。

(Q.なぜこのタイミングで大規模な攻撃が行われたのでしょうか)

大平デスク:「ガザの中と外、2つ要因があると思います。ガザの中ではこれまで、ハマスに一定の支持がありましたが、苦しい状況を打開できないことに不満が高まって、7月末には異例のデモが行われました。ハマスとしては何らかの成果を見せる必要があったと言えます。もう一つは、同じ民族としてパレスチナの後ろ盾になってきた、イスラエル周辺にあるアラブ諸国の変化です。急速にイスラエルに接近しています。特に大国のサウジアラビアが、イスラエルとの国交正常化を模索していること自体、ハマスが拠り所を失ったと捉えても過言ではありません。今回の攻撃で、ハマスは『パレスチナ問題の解決なくして、イスラエルとの関係改善はあり得ない』というメッセージになると思います」

(Q.今後はどうなることが考えられますか)

大平デスク:「イスラエルは今後、地上部隊の侵攻が大きな焦点になってくると思います。そこで障害になりそうなのが、100人以上に上るとみられる人質の存在です。ハマスは人質を使って人間の盾にしたり、拘束されている戦闘員との交換に使う可能性があります」

(Q.今後のカギは何ですか)

大平デスク:「まず一つは、ハマスを支援していると言われるイランの動きです。イスラエルにとっては大きな敵国になります。もう一つは、アラブ諸国が仲介に出るかどうか。今のところ、イスラエルとの関係を気にして一歩引いていると言えます。」 (C) CABLE NEWS NETWORK 2023
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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