「R調査班」。身近で起きている不正やトラブル、不可解な現象などに関する情報を視聴者から募りRKBの記者が徹底調査するシリーズ。
今回は福岡県久留米市で地域住民を悩ませるいわゆる「ごみの山」の問題。その量は、なんと3400トン。山積みにされた状態が5年近く続いている。
「祖父が残してくれた土地と倉庫に3400トンのプラスチック関連のごみが放置されています」取材のきっかけは、RKBに届いた情報提供だった。大量のごみが放置されているという福岡県久留米市の三潴町(みずままち)に調査班が向かうと――。
「かなり山積みになっています、ひどいですね」(RKB植高貴寛)
敷地内に広がる見るからに「ごみ」の山。廃棄された使用済みのプラスチックのほか、タイヤ、消火器、発泡スチロールなどもある。
「ごみが飛ぶから風とかで火事も怖い。匂いもあるから風向きで。最近はガラスも割れてむき出しになっている」「あれに火が付いたらこわいですよ。いつも通っているけど」(住民)
倉庫に入ると男性が仕分け作業をしていた。この土地の所有者で情報を寄せた永田安孝(ながた・やすたか)さんだ。永田さんによると、この敷地にある堆積物は3400トンに上る。
「なぜここまでなってしまった?」(RKB植高貴寛)
「15年くらい前からリサイクル業者に貸していた。不況になってだんだん家賃も未払いになったので…」
「リサイクル」という言葉の通り、倉庫の中は、大量のプラスチックなどが置かれていた。
「スーパーのかごですね、子供用のイスが無造作に置かれています。縄が上までずっとあります。これは車のフロント部分ではないでしょうか」(RKB植高貴寛)
土地は、永田さんの祖父が所有していたもので、2006年からリサイクル業者に貸していた。その業者は、回収した使用済みのプラスチックなどを加工し、国内で販売したり輸出したりしていたが、5年ほど前から経営が悪化。土地の使用料も未払いが続いたという。
調査班は、この業者をよく知るという関係者をあたった。
「リーマンショックの影響から今までの廃プラスチックの価格が変動し、結局売ることもできない在庫が増えていった」(関係者)
また、国際的な環境意識の高まりから、主な取引先だった中国がプラスチックごみなどの輸入を規制したことで、「在庫が行き場をなくした」という。
「一番の問題は事業の見通しの甘さ。中国の規制も一時的なものだろうと希望的な観測で対策を立てずに、目先の利益を得ることのみに意識がいっていた」(先出の関係者)
永田さんは、業者側に再三撤去を求めたものの、経営者は「ごみではなく資産だ」と主張し続けた。結局、この業者は去年破産し、業者が言う「資産」がこの土地に残った。
「出て行ってもらった以上オーナーの責任になるので、もちろん理不尽な思いはあるんですけど…」(土地を所有する永田さん)
処理業者に依頼してすべてを撤去するには数千万円もの費用がかかる。永田さんは仕事の合間を見つけては、プラスチックなどをトラックに積み込み、無償で引き取ってくれる大牟田市の業者に運ぶ。
「片付けないと土地を売ることも活用することもできないし、正直お金がない。できることを考えながら前向きな気持ちにならないと力が出てこない。もっていけるものだったり、ひきとってもらえるものを一つ一つ見つけて、減っていることを見ながら、進んでいるような感じ」(土地を所有する永田さん)
調査班が見た異様な「ごみの山」。
ごみの山の正体は、リサイクル業者が資源として集めた使用済みのプラスチックだった。
業者は数千万円にのぼる土地の使用料も払わずプラスチックの山を残して去年、破産した。
何年も放置された大量のプラスチック。この状態まで行政は対処しなかったのだろうか?
調査班が、久留米市に情報公開請求をすると、市は2008年以降なんと160回以上に及ぶ現地調査を実施していたことが分かった。
「長時間、滞留しているプラスチックは廃棄物であると認識しています。そのようなものはどのように考えていますか?」久留米市環境部廃棄物指導課担当者(去年10月2日の聴取)
「腐食していても溶かすので特に問題ない。いつか利益が出るものだ」(リサイクル業者社長)
「第三者としての視点で工場の状態をご覧になってどのように思われますか?」(久留米市)
「すごい状態だと思う。本当、自分でも見たくない」(社長)
行政の聞き取り調査に対し、まるで他人事のように話す業者。事態を重くみた久留米市は、廃棄物処理法違反の疑いがあると判断し2019年に異例の立ち入り検査に乗り出した。しかし、この時撤去の指導はできなかった。
Q廃棄物はなかったということですか?
「我々が立ち入りで入ったときには、そういうのは確認ができておりません。やはり、有価もしくは無償での引き取りという形がありますのでどこまでが廃棄物でどっからが有価物という線引きがなかなか難しい」(久留米市環境部廃棄物指導課田代光宏課長)
そもそも法律上の「廃棄物」の判断基準は、悪臭など生活環境への支障が発生するか、適切な保管や品質管理がされているか、有償で取引できる相手がいるかなどがある。
今回のように持ち主が「廃棄物ではない」と主張した場合、客観的な判断が難しい。環境問題に詳しい専門家は――。
「リサイクル品として有償で引きとってもらえるところを見つけることができなかった。持ち出し先がないのにむやみにひきとったのは業者の甘さだと思います」(九州大学・島岡教授)
島岡教授は業者の認識の甘さを指摘する一方で、今の状況で行政が介入するのは難しいと話す。
「行政は具体的に問題が生じていないと動けない。ものすごい悪臭がするとか汚水によって周辺の土壌が汚染されているなどの事実が科学的なデータもそろえて明らかにならないと」
永田さんは、リサイクル業者との間で未払いの使用料の返済・土地の原状回復・連帯保証人の免除などを決めた合意書を交わしている。はたして業者に片付ける意志はあるのだろうか?
調査班は直撃取材を試みた。
「ごみを放置されていますがどのようにされるつもりでしょうか?」(RKB植高貴寛)
先月、業者の元経営者を訪ねると家族が応対し、病気の療養を理由に取材を断られ。19日再び訪問すると――。
元経営者は、今月9日に病気で死亡したことが分かった。永田さんの代理人弁護士によると、元経営者が亡くなったことで親族が遺産を相続すれば、使用料の返済やプラスチックなどの撤去を引き続き求めることができる。
しかし、3か月以内に相続されず、放棄された場合、永田さんは泣き寝入りするしかないという。
「苦しい思いですが、残されたものをどう責任とっていくかしか考えれない。ただ、一気にというのは僕の力では難しいのでできることをやるしかない」(土地を所有する永田さん)
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