「自分の映画では絶対に泣かないけど、初めて涙がぽろっと出ました」。成島出監督(60)がそう振り返ったのは、松坂桃李(32)演じる野呂聖二が小児がんの少女・萌(佐々木みゆ)を背負って海で泳ぐシーンだ。
製作総指揮を務めていた東映・岡田裕介会長(20年11月死去、享年71)が強くこだわったシーンでもある。当初の台本では、波打ち際で軽く水を浴びる程度だったが、岡田会長が「桃李くんが彼女を背負って沖へ泳いでいこう」と提案。成島監督は「病気の子が海に入るのは医学的に違和感がある。監修のお医者さんにも『それはおかしい』と言われますよ」と反論したが、妥協しなかったという。
岡田会長は「俺が子供の頃、遠泳大会があって、妹がバテて泳げなくなった。それで首にしがみつかせて、一緒に泳いだんだよ。その思い出がずっとあるんだ。何としても面白いシーンを撮りたい」と訴えた。その熱意に押され、成島監督は「めちゃくちゃだけど、そこまで強い思いがあるのなら…分かりました」と承諾。結果的に監督自身の心にも響く印象的なシーンに仕上がった。
作品全体を通して意識したのは吉永小百合(76)演じる咲和子の成長物語ということ。「ベテランの医師が在宅医療という未知の世界に飛び込んで、生と死に向き合えば、まだまだ成長できる。生きていること自体に希望を持たせたかった。それを吉永さんが体現してくれた」
松坂と広瀬すず(22)には「仕事をするのは初めてだったけど、思っていた以上にすごく良かった」と好印象。「スクリーン向きだから、今後の映画界を背負っていってくれると思う。なるべく映画俳優、映画女優でいてほしい」と期待を込めた。(有野 博幸)
◆成島 出(なるしま・いずる)1961年4月16日、山梨県生まれ。60歳。大学中退後に助監督として相米慎二監督、平山秀幸監督らに師事。2003年に「油断大敵」で監督デビュー。11年の「八日目の蝉」で日本アカデミー賞最優秀監督賞、14年の「ふしぎな岬の物語」で同優秀監督賞、15年の「ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判」で報知映画賞作品賞を受賞。
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