ロシア軍のウクライナ侵攻から1か月を迎え、首都周辺でロシア軍が後退するなど、戦況に変化が見られます。一方で化学兵器使用の抑止へNATOがどう対応するか、追加制裁を議論するG7がロシアの譲歩を促すため一致して行動できるかなど、難題もあります。
■戦況に変化…ウクライナが反転攻勢?
有働由美子キャスター
「ウクライナの戦況に変化が現れています。1週間前の日本時間17日午前4時時点では、首都キーウ(キエフ)にもロシア軍の支配地域が迫っていました。ですが24日午前4時時点では、キーウ西側に、反撃している地域が広く見られるようになりました」
「またAP通信によると、NATOはロシア軍の死傷者が3~4万人に上るとの推計を明らかにしました。今後はウクライナ軍が反撃する地域が広がっていくのでしょうか。国際安全保障に詳しい慶応義塾大学の鶴岡路人准教授にうかがいます」
鶴岡准教授
「ウクライナ側が反撃をしているということですが、どれぐらいの規模で今後組織的にできるかは分からないところです」
「ロシア側はキーウの包囲がなかなか進まない中、南東部ドンバスやクリミア周辺で支配地域を拡大しているといいます。もしかしたらロシアの優先順位としては、今は南東部に重点を置いているということなのかもしれません」
■「化学兵器」使用の懸念は?
有働キャスター
「アメリカやイギリスなどから懸念が示されたのが、ロシアが生物・化学兵器を使用する恐れです」
小栗泉・日本テレビ解説委員
「ウクライナのゼレンスキー大統領も23日の国会演説で、『サリンなどの化学兵器を使った攻撃をロシアが準備しているという報告を受けている』と話していました」
「サリンは、1995年の地下鉄サリン事件でも使われた神経ガスの一種で、呼吸困難や麻痺などを引き起こし、死に至ることもある猛毒です。化学兵器禁止条約で使用が禁止されているものです」
■抑止へ…NATOの「警告」いかに
有働キャスター
「ロシアが化学兵器を使う可能性をどう見ますか?」
鶴岡准教授
「使う能力は常にあると思います。アメリカやイギリスはさまざまなソースから、『使うかもしれない』というインテリジェンスの情報を得ていると思います。ただ実際に使われた場合にどう対処するかは難しいところです」
「NATOの首脳会合ではその議論をしたと思います。表に出てきているコミュニケ(声明)を見る限りは、必ずしも新しいことは入っていないようです」
「ただ『化学兵器が使われた場合には深刻な結果を招く』という文言があります。この裏に、実は合意された何らかの対処策があるのかないのかが、注目だと思います」
廣瀬俊朗・元ラグビー日本代表キャプテン(「news zero」パートナー)
「生物・化学兵器はとても恐ろしい印象を持っていますが、こうした兵器を使わせないために具体的に有効な方法はありますか?」
鶴岡准教授
「NATOとしては『深刻な結果を招く』ということで、おそらく示唆されているのは、何らかの軍事介入を行うということだと思います。ただそれが本当に合意されたのか、行われたとしてどういう軍事介入になるのか」
「さらに、NATO側の警告がロシア側にとって信頼に足るものなのか。本当にそこまで覚悟があると、ロシア側が認識するかどうか。『どうせNATOは行動しない』と思われると抑止にならないので、NATOが今後どんなメッセージを発せられるのかが問われます」
■ロシアの「譲歩」引き出すには?
有働キャスター
「G7首脳会議では、ロシアへの追加制裁も議論になっています」
小栗委員
「ロシアの暴発を防ぐためには圧力で追い込むことも大事ですが、同時にロシア側の譲歩を促すことも、今後ポイントになってきます。アメリカ政治に詳しい明海大学の小谷哲男教授に、バイデン政権内部の動きを聞きました」
「『バイデン政権は、公にはロシア軍が撤退し、将来にわたっても軍事侵攻しないと約束することが制裁緩和の条件だとしている』と小谷教授は指摘します」
「一方で『ゼレンスキー大統領がプーチン大統領との交渉で譲歩を引き出すためのカードとして『制裁緩和をしたい』と求めてきた場合には、これを検討することも視野にある。内々に、ゼレンスキー大統領の本音を探ろうとしている』とも話しました」
■「制裁緩和」も交渉のカードに?
有働キャスター
「まさにG7でこれから話し合われますが、ゼレンスキー大統領はどう考えているのでしょうか?」
鶴岡准教授
「ゼレンスキー大統領が制裁の緩和を望むかという話ではなく、おそらく停戦協議やロシア軍の撤退に関する協議をする時に、ロシア側が条件として制裁の緩和や解除を求めてくるということだと思います」
「その時に国際社会やウクライナがどう対処するかが問題です。制裁を強化する局面の方が、足並みをそろえるのは簡単だったかもしれません。今後、交渉の中で一部の制裁を解除となると、米欧日でどう足並みをそろえるのか、非常に大きな課題になると思います」
有働キャスター
「アメリカはロシア軍の攻撃を『戦争犯罪』と認定しましたし、今のところ制裁を緩めるという感じではありません」
鶴岡准教授
「この戦争犯罪の話が新しい要素で、プーチン大統領が『戦争犯罪人』となった場合、たとえ停戦が成立しても、ロシア軍が撤退しても、戦争犯罪という行為自体は残ります。プーチン大統領の訴追という問題も残ります。その中でどう解除するのか」
「解除できる制裁と、プーチン大統領が大統領でいる間は解除できない制裁を、色分けしていく作業になるのかもしれません」
(2022年3月24日「news zero」より)
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