ウクライナではロシア軍による市民の「大量虐殺」が複数の街で行われていた可能性が浮上しています。いくつかの遺体には“拷問の形跡”も。現地を取材した日本人ジャーナリストに話を聞きました。
■「残虐な行為を行った責任者を必ず見つける」
首都キーウから西に20キロ離れたストヤンカでは、川をまたぐ高速道路が大きく破損しています。ゼレンスキー大統領は4日、ロシア軍が撤退したキーウ近郊の町を視察してまわりました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領:
「あっちはどんな状況?」
大きな建物は破壊力の高いミサイルなどで攻撃を受けたのでしょうか。損傷が激しく、一部を除いて原形をとどめていません。川沿いに無数に見られる黒くなった部分は砲撃が着弾したところです。
キーウの北西にあるイルピンの道路には、避難中の住民が乗り捨てたとみられる乗用車が多数破壊されていました。
ウクライナ ゼレンスキー大統領:
「現在、ボロディアンカやその他の解放された町では死傷者の数がもっと多いとの情報がある」
各地を視察したゼレンスキー大統領は「まだ明るみに出ていない被害がある」としました。具体的に挙げたのが、キーウ北西のボロディアンカです。ウクライナ国防省Facebookの映像からは町の破壊が進んでいることがわかります。
今月2日、ウクライナ外務省のTwitterに投稿された映像では・・・
「見ろ、最悪だ。これはロシアがもたらした世界だ。みんなに見せないと。あいつらが民間人を殺してないというのは嘘だ」
ロシア軍が撤退したばかりで、まだ町の状況がわかっていないのが現状です。
道路に放置されたままとなっていた複数の遺体。頭から血を流して死亡した男性は、両手を背中の後ろで縛られていました。抵抗できない状態で殺害されたものとみられます。
ゼレンスキー大統領は「ブチャで少なくとも市民300人以上が殺害され、大量虐殺=ジェノサイドが行われた」と訴えています。
ウクライナ ゼレンスキー大統領:
「我々は残虐な行為を行った責任者を必ず見つける。それが世界にとって必要なことです」
■現地取材の日本人ジャーナリストは・・・
日本人ジャーナリストの伊藤めぐみさんは、殺害された民間人とみられる遺体を目の当たりにしました。
伊藤めぐみさん:
「自分の目で見ているのに、なかなか頭が追いつかないというか」
街中には地雷が残っているため、伊藤さんはウクライナ当局の案内のもと、4日に現地に入りました。
ウクライナ内務省担当者:
「我々は犯罪が起きた場所に行きます。あなたも行けます。中国からですか?」
伊藤めぐみさん:
「日本です」
ウクライナ内務省担当者:
「我々と一緒に行きましょう」
案内されたのは、木が生い茂るのどかな場所。子どもたちのキャンプ施設だと言います。建物の地下へ下りていくと、5人の遺体が折り重っていました。
伊藤めぐみさん:
「着ている服は砂だらけというか、蹴られたりしたんだろうなと。鼻だったり口だったりにすごく砂がついていたので、もしかしたら無理矢理(砂を)入れられたんじゃないかなとか、(顔も)陥没していたりとか」
運び出された遺体は、両手を後ろで縛られていました。さらに、拷問されたのか、顔や頭部がひどく傷ついています。ある男性が身につけていた財布の中には、妻か娘と思われる女性の写真が入っていました。
伊藤めぐみさん:
「見つかっていない遺体もあるでしょうし、その5人みたいに、もしかしたら他の場所で見えないところで拷問された人の遺体があるかもしれない。まだ、どういうことが起きたのか全容はわかっていないんじゃないか」
■「民間人殺害に関与した」とするロシア兵の名簿を公開
住民の女性は、ロシア軍が占拠していた間、水も電気もない状態でしたが、外に出ることはできなかったといいます。
ブチャの住民:
「ちょうど家の裏に大量の戦車や数えられないぐらいのロシア兵士がいました。彼らはあのときすでに大勢の人を射殺していました」
ウクライナ国営メディアが公開したテレグラムの映像を見ると、自転車らしきものに乗り、道路を移動している人が見えます。画面中央にはロシア軍の戦車が並んでいます。この人物が十字路を曲がると、軍用車両がその方向を攻撃しました。攻撃は何度も繰り返されました。
国際的な調査報道機関ベリングキャットは、攻撃があった場所に自転車と遺体があったと指摘しています。
ウクライナ国防省は4日、「民間人殺害に関与した」とするロシア兵およそ1600人の名簿を公開しました。名簿には、氏名、生年月日、階級などが記載されています。
ウクライナ国防省:
「市民に対する残虐行為について、全ての戦争犯罪人は裁判にかけられ責任を負わされる」
■「すぐ隣で生活していた人間が恐ろしいことをしている」
ロシア側の“戦争犯罪”を問う声は各国でもあがっています。
アメリカ バイデン大統領:
「プーチンは残酷だ。ブチャで起きていることは言語道断でみんなが見ている。彼は戦争犯罪人だ」
自民党 茂木敏充幹事長
「戦争犯罪者と呼んでもいいのではないか」
国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、すでにブチャで調査を始めています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ調査員:
「ここに遺体がありました。鉄板にはいくつも傷がある。庭に入ってきた弾丸の多くはこちらから来たように見える」
来日して25年になるロシア人のビクトリアさん。ロシア軍の行為を受け止めきれないでいます。
記者:
「最初見たときどういう風に感じた?」
在日ロシア人 ビクトリアさん:
「恐ろしいですね。一言で言うと、見たくはなかった」
ビクトリアさんは、ウクライナの現地メディアが伝える情報も積極的にチェックしていると言います。
在日ロシア人 ビクトリアさん:
「残念ながらキエフ(キーフ)近郊で配置されたのは、私たちと同じ極東地方の出身者(兵士)。もしかしたら、すぐ隣で生活していた人間が恐ろしいことをしているんだなという。そういう身近さを感じてしまった」
■「パフォーマンス動画が撮影された」
一方、ロシア側は市民の殺害を否定しています。
ロシア ラブロフ外相:
「ブチャで新たなニセ攻撃が行われた。交渉の結果、予定通りロシア軍は撤退した。その数日後、パフォーマンス動画が撮影された」
ブチャの大量虐殺は“フェイク”だと主張。その根拠としているパフォーマンス動画というのが、ブチャの惨状を伝えたウクライナのニュース番組です。
ウクライナESPRESO.TVのYouTubeより:
「“ロシア軍がブチャで起こした戦争犯罪を弁護士団体が撮影しました。ロシア軍は街から撤退する前に数十人の民間人を虐殺しました”」
ロシア国防省はSNSでこの映像を引用し、“遺体が手を動かしている”と遺体が動いていると主張。さらに、サイドミラーに写った遺体も、“遺体が起き上がった”と。悲劇的な映像を作るために、遺体であるかのようにウクライナ側が演出していると主張しているのです。
■映像の“動く遺体”を検証
真っ向から否定したのは、映像を分析した調査報道機関べリングキャットや欧州メディアです。
▼検証1
こちらの映像。
何か白いものが下から上に動いていきます。
べリングキャットによると、動いていたのは手ではなく、
“フロントガラスの水滴だ”
▼検証2
そして体の起き上がったとされる映像。
車が遺体の横を通り過ぎ、サイドミラーに映った瞬間、動いたようにも見えます。
しかし、ベリングキャットによると「これは単なるミラーの歪みだ」と指摘したのです。
ロシアの主張は他にもあります。
ロシア ラブロフ外相:
「ロシア軍は(ブチャを)3月30日に撤退した。パフォーマンス映像が出されたのはその2日後だ」
ラブロフ外相は「ブチャの映像はロシア軍が撤退した後に作られた」ものだと主張。しかし、アメリカのニューヨーク・タイムズが、ブチャの衛星画像を検証。ロシア軍の撤退前である先月19日の画像に複数の遺体が確認できるとし、ロシア側の矛盾を指摘しています。
■”ロシア国内で堂々と自分の意見を言えるのはプーチン派の人ぐらい”
こうした情報戦をロシア国内の人たちはどう受け取っているのでしょうか?
在日ロシア人 ビクトリアさん:
「(ロシア国内の)親戚にその話(ウクライナの現状)をふってみたところ、完全に否定されました。全部ウクライナ側のフェイクだ、騙されるな、絶対ウソだと」
ロシア政府の主張を信じている人も多いといいます。
ロシア国内では政府の主張に表だって反論する空気ではないと話します。
在日ロシア人 ビクトリアさん:
「ロシア国内で堂々と自分の意見を言える人って、今はおそらくプーチン派の人ぐらいです。もちろんブチャ、ウクライナ全土でロシア軍隊が行っているのは、戦争犯罪です。私の認識では。正当化するつもりは毛頭ありません」
(05日23:57)
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