宮崎学「愛知県保釈金三億円事件」を語る

http://blogs.yahoo.co.jp/aichilpolice
『その男、保釈金三億円也。』
http://www.amazon.co.jp/dp/4594056660/

「それで捜査の方はどうする? 今のままでは埒があかんだろ? いつマスコミが嗅ぎ付けて騒ぎ出すかも知れんのだぞ、どうするつもりだ?」
 立石も軽く腰を浮かせて中丸の正面へと座り直し、中丸の目を見据えて言った。
「本部長。あり得んことですが、ひとつには、SA住建への詐欺容疑を解いて奴らと手打ちする。しかしそれは、絶対にあり得ません。そこでさもなくば…」
 中丸が黙ったまま身を乗り出した。
「さもなくば…」と、立石は同じ言葉を繰り返し、間を置いてから続けた。
「どんな事犯でも構いません、とにかく何か見つくろって立件し奴らを徹底的に叩き潰す。そして、あんな悪党どもの主張など耳を傾けるに値しない、あのDVDそのものがデタラメだった、というストーリーを作る。…そうです、それしか他に手はありません」
 立石の言葉に中丸は頷き、我が意を得たりというように勇んで言った。
「よし、何としてもSA住建の奴らを有罪に持っていくため、この際、何としても浅岡を挙げろ。そして奴に実質的経営者であると認めさせて、奴らへ詐欺師という決定的な烙印を押すんだ。強行突破で、我々の当初の筋書きを貫徹する。いいな?」
「分かりました。ただ、浅岡という奴はなかなか一筋縄ではいきません。またDVDの裏も取ってからとなりますので、タイミングはお任せ頂きます」
 決意を込めて立石が答えた。

「お前もマダマダだな、門倉。ここからだわ、俺様が一発逆転を仕掛けるのは」
「はぁ? どういう意味ですか、こんな絶体絶命のピンチなのに?」
 気力の萎え切った門倉が、ホラ話でも聞くようにして原田に問い掛けた。
 原田はほくそ笑んだままだ。
「あの青臭い今泉と、現場の分かっとらん新米課長に、暴対課の刑事捜査の何たるかをこの俺様が教えたるんだわ。そもそも上がヤルッちゅうたら絶対ヤルッちゅうのが警察の仕組みだと分かっとりゃせんのだ、あいつらは。あの小僧らに俺の恐ろしさをとことん思い知らせてやるでな」
 門倉は訳が分からずポカンとしている。
 原田には、叩き上げのノンキャリアとして磨いた勘から、今の状勢に独自の勝算があった。警察と検察の立場が不利になればなるほど、追い詰められたキャリアたちの取り得る判断は単純で強権的であることを知っていた。
 自分の立場も、国賠を仕掛けられた失点さえ回復出来れば、むしろ指揮官から外されていたことで、苦しくなる警察の立場と相反して有利になると読んでいた。
 警察や検察は絶対に自分の非を認めない。この根本原理さえ骨身に刻んでわきまえれば、警察官として生き延びられるのだと原田は叩き上げの刑事人生の中で学んでいた。
「おぅ門倉。俺は今から、頭から湯気出してるはずの横山検事とこ行って、これからのこと目一杯焚き付けてくるからよ、お前は、宮脇の詐欺の新しい件見繕って用意しとけ。前からこっそり用意しとった分があるだろ、そっからだで早いわな、今夜中だでな! 奴は弱り切っとるでよ、ホッとしたこの隙にもう一発ガツンとかましたるんだわ」

「我々があんなチンピラと取引すると言うのか? ここは腐っても天下の愛知県警だぞ。田舎の地方警察とはわけが違うんだ。それがよりによって警察庁からの通達を達成出来んばかりか、あんな奴らにハメられとるとは…」
 立石も同様に自嘲を込めて言わざるを得なかった。
「身から出た錆、ということですな。奴らを舐め過ぎておったんです。もう既に詐欺で五件もの不起訴を出しとります。そこでさらに公判で無罪判決まで出たとなったら、いずれにせよ我々は負けたも同然…。その上、身内のサンズイで追い詰められ、検察との癒着で崖っぷちに立たされとるんですから、他に道はありません」
 立石の断言に、中丸が喉から言葉を搾り出した。「だがもし、浅岡がその取引に応じなかったらどうなるんだ?」
「その時は…、我々も腹を括っておくしかありませんな。しかし…」
 立石は今泉から聴き取っていた浅岡の人となりを思い出しながら続けた。
「奴なら間違いなく応じるはずです。もちろんそれなりの手を掛け…、あの原田を再利用した追い込みを掛けて、万全を尽くしますが。さもないと、火に油を注ぐことになりかねません。浅岡たちにとっても厳し過ぎる妥協ですからな、これは」
 もはや観念した中丸は、眉間に深いしわを寄せた立石をじっと見ていた。

(以上、本文から)

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宮崎 学 著
田中森一 監修
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扶桑社
本体1680円(税込)
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宮崎学、初の本格警察小説を
獄中の田中森一が監修!

実話を題材にした迫真のフィクション

「突破者」と「闇の守護神」が
再びコンビを組み警察の闇を切り裂いた。
愛知県警を舞台に刑事、被疑者、検察が
繰り広げた死闘の行方とは?
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2005年、当時、リフォーム詐欺事件が大いにマスコミを賑わせていた。愛知県警でも 同種の事犯を組織犯罪処罰法で摘発し警察庁通達への成果を目論み、あるリフォーム業者 の内偵を開始した。
ターゲットとなったのは、かつて暴走族に在籍した過去を持ちながら、愛知県内三年連続 長者番付1位となった経営コンサルタント・浅岡裕二。専門域外の暴力団対策課はロクな 裏取り捜査も行わないまま、単に「元不良」の大金持という理由から、浅岡がコンサルテ ィングするSA住建を暴力団のフロント企業と断定、複数の関係者の逮捕に踏み切ってし まう。だが関係者の詐欺容疑は次々と暗礁に乗り上げた…。
容疑者、警察、検察、がそれぞれの思惑から死闘を繰り広げた結果、警察不祥事までもが 公判で明らかになってゆく…。
日本の警察や司法は、どれほどの構造疲労を起こしているのか? 著者・宮崎学、監修・田中森一という豪華コンビが、司法警察の実態を世に問う。
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高額保釈保証金リスト
20億円 浅田 満(元ハンナン会長)ハンナン牛肉偽装事件
15億円 竹井博友(元地産会長)脱税
15億円 末野謙一(元末野興産社長)住専めぐる資産隠し事件
10億円 水野 健(元ケン・インターナショナル社長)茨城カントリークラブ事件
10億円 司  忍(六代目山口組組長)山口組銃刀法違反事件
8億円 小谷光浩(元光進代表)蛇の目ミシン工業恐喝事件
7億円 村上世彰(元村上ファンド会長)ニッポン放送株インサイダー取引事件
7億円 尾上 縫(元料亭「恵川」経営者)東洋信金事件
6億円 許 永中(元不動産管理会社代表)イトマン事件
5億円 堀江貴文(元ライブドア社長)ライブドア事件
3.5億円 田中角栄(元内閣総理大臣)ロッキード事件
3億円 浅岡裕二(元経営コンサルタント)傷害事件
3億円 武井保雄(元武富士会長)武富士盗聴事件
3億円 金丸 信(元衆議院議員)巨額脱税事件
2.5億円 横井英樹(元ホテルニュージャパン社長)ホテルニュージャパン火災
2億円 江副浩正(リクルート創業者)リクルート事件
1億円 堤 義明(元コクド会長)西武鉄道株事件
1億円 安部 英(元帝京大学副学長)薬害エイズ事件
0.5億円 鈴木宗男(衆議院議員)受託収賄事件
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宮崎 学(みやざき・まなぶ)作家
1945年、京都のヤクザ寺村組組長の次男として生まれる。早稲田大学中退。大学在学 中には共産党の非合法ゲバルト部隊の隊長として派手に活躍。大学中退後、「週刊現代」 記者、解体業経営、地上げ屋などを経て1996年には自伝『突破者』(南風社)で作家 デビュー。同書はベストセラーになる。また、グリコ・森永事件の「キツネ目の男」と目 され、警察にマークされた。『ヤクザと日本』(筑摩書房)、『警察の闇 愛知県警の罪』(アスコム)、『近代ヤクザ肯定論』(筑摩書房)、『右翼の言い分』( アスコム)、『安倍晋三の敬愛する祖父 岸信介』(同時代社)、『国家の崩壊』(佐藤優氏との共著:にんげん出版)、『法と掟 と』(洋泉社)、『万年東一』(角川書店)など著書多数。
http://miyazakimanabu.com/

田中森一(たなか・もりかず)元特捜検事/元弁護士
1943年、長崎に生まれる。岡山大学法文学部在学中に司法試験に合格。1971年、 検事任官。大阪地検を経て、東京地検特捜部で撚糸工業組合連合会汚職、平和相互銀行不 正融資事件、三菱重工CB事件などを担当。伝説の辣腕特捜検事として名を上げ、198 7年、弁護士へ転身。2000年、石橋産業事件をめぐる詐欺容疑で東京地検に逮捕、起 訴され懲役3年の実刑判決。上告するも2008年3月に棄却、刑が確定。『反転 闇社会の守護神と呼ばれて』(幻冬舎)、『バブル』(宝島社)、『検察を支配する「悪 魔」』(講談社)、『必要悪~バブル、官僚、裏社会を生きる』(扶桑社)、『日本の論 点2008』(文藝春秋)など著書多数。
http://tanaka-morikazu.net/
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保釈保証金とは、身柄を釈放する代わりに、公判への出頭等を確保するために、預けさせ る金銭のことである。裁判が終了し判決が確定するまでに、被告人に対し保釈取消しがさ れなければ、判決確定後に保釈保証金は返還される。また、被告人の死亡等に伴い公訴棄 却が決定した場合でも、保釈保証金は返還される(この場合は被告人の親族又は後見人が 受取人となることがある)。保釈が取り消された場合は、保釈保証金は全額又は一部が没 取されることになる。保釈保証金の額について、統計が存在する最新の平成10年のデー タでは、100万円未満が1.4%、100万円以上150万円未満が15.2%、15 0万円以上200万円未満が34.5%、200万円以上300万円未満が31.5%、 300万円以上が17.4%であった。近年、弁護士などからは、保釈保証金が高額化し ているとして、「人質司法である」との批判もある。(『Wikipedia』より)
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