うつ病について解説します。10人に1人? それとも過剰診断?【精神科医が一般の方向けに病気や治療を解説するCh】

うつ病に関して、おすすめ動画20本まとめています
https://wasedamental.hatenadiary.jp/entry/2021/06/13/%E3%81%86%E3%81%A4%E7%97%85%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E8%A7%A3%E8%AA%AC

01:23 うつ病について知っておいてほしいこと
03:37 うつ状態とは
05:19 躁うつ病
06:32 治療経過
08:11 治療方法
12:21 傷病手当金
13:02 受診のタイミング
13:47 周りの人はどうすれば?

今日は「うつ病」について解説します。

うつ病を一言で言うと「3~6ヶ月の落ち込みを繰り返す脳病」です。
このように言うと「そんな風に言われたことないよ?」「もっと短い場合はうつじゃないの?」と思われる方もたくさんいらっしゃると思います。うつ病はまだまだわかっていないことも多く、一言でまとめてしまうと、医師ごとに説明が変わってしまうのですが、ざっくりと聞いていただ ければと思います。

うつ病の概念は19世紀にクレペリンという人が文献を整理してできあがったものですが、そのような古典的な「うつ病」の概念と、最近の操作的診断で語られている「うつ病」には少しズレがあります。
今回は古典的なうつ病としての理解を書いています。
なぜ現代のことを書かないのかは動画の中盤で説明します。

■うつ病について知っておいてほしいこと

・回復には時間がかかる
うつ病は「脳の病気」です。
ですから回復には時間がかかります。ホワイトボードには3~6ヶ月と書きましたが、もっと掛かることもあります。
どうして長くかかると強調するかというと、「早く治さなければ」と焦る患者さんが大勢いるためです。
短く期間を説明すると、臨床現場ではそういうトラブルがあります。

・落ち込みを繰り返す
原因不明の落ち込みを繰り返すというのが古典的なうつ病の理解です。現代的な操作的診断では、初発の人でもうつ病と診断するために「繰り返す」という項目は除外されています。
でも今回「繰り返す」ということを改めてお伝えしているのは、「繰り返しているのは自分だけだ」と思っている患者さんがあまりにも多いためです。

・1/3の人は薬が効かない
これもまた衝撃的な事実かもしれませんが、1/3くらいの人は薬があまり効きません。

うつ病は、
1/3の人は、薬を飲まなくても自然経過の中で治っていきます。
1/3の人は、薬を飲んだほうが治りが早くなります。
残り1/3の人は、薬を飲んでもなかなか効果が出ず、長期化します。

ですからとても大変な病気です。
気軽に診断されるものではありません。

原因がはっきりしている場合であれば、僕らは「適応障害」と診断します。ですが、治りが悪いとか繰り返す場合は「うつ病」という病名に移ることが多い。

■うつ状態とは

うつ病の落ち込みを「うつ状態」と言います。

うつ状態とは、
・気分の落ち込み
・不安
・焦り
・集中困難
・意欲低下
・思考制止
・食欲低下、過剰
・入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒
・希死念慮
といった状態です。

うつ状態はいろいろな原因でなり得るものです。ですから、一生のうちで10人に1人は経験すると言われています。

例えば、
・統合失調症の陰性症状のうつ状態
・躁うつ病のうつ状態
・発達障害の二次障害としてのうつ状態
・不安障害からくるうつ状態
・産後のうつ状態
などがあります。

このように「うつ状態」は多くの人が経験しますが、実際の「うつ病」は2~3%と言われています。

■躁うつ病

また、「躁うつ病」に注意が必要です。
古典的な理解では、うつ病は中高年発症が多いと言われており、若年の場合は躁うつ病の人が多いと言われています。

若い人をうつ病と診断すべきかどうかはいろいろな考え方があり、僕はどちらかというと若い人は躁うつ病を疑います。
途中で躁転してトラブルになることもあるので、躁うつ病をかなり疑うというのが臨床的なあり方ではないかと思います。

実際、10代~20代の頃はうつしかなかったけれど、実は隠れた躁状態があり、40代や50代になってから誰が見ても明らかな躁状態が起きるということも結構あります。
抗うつ薬が効きにくい人で、躁うつ病の治療に切り替えると良くなった、という人もいます。

■治療経過

仕事をしている人を例に治療経過を説明します。

最初はギリギリまで頑張って過剰適応し、むしろハイな感じがあります。少し怒りっぽかったりもします。そして、休むとドーンと落ち込みます(急性期)。
落ち込みがひどいながらも日内変動があり、少しずつ回復して元に戻ります(回復期)。

このようなエピソードを繰り返します。
この落ち込みのパターンが3~6ヶ月掛かります。

急性期と呼ばれる時期は落ち込みが酷いのですが、回復期になると寝てばかりいることが多いです。

急性期は考えることすらできないのですが、そこから少し持ち直した回復期は「これで良いのかな」と考えて焦る時期でもあります。焦ってトラブルも起きやすい時期です。また、自殺が起きやすいのもこの時期です。
回復期は、「焦らなくて良い、大丈夫、寝ていて良い」ということを念仏のように言う時期です。

もっと良くなってくると、認知行動療法(CBT)やカウンセリング、仕事復帰のための訓練などをやっても良い時期になります。

最初はとにかく休む、回復期はとにかく寝る、というのがうつ病の治療です。

■治療方法

・抗うつ薬 SSRI、SNRI、NaSSA
治療についてはまず「抗うつ薬」を飲みます。
抗うつ薬の効きやすさのランキングはあるのですが、それは副作用の強さと比例します。ですので、ちょうど良い塩梅のところを主治医が選びます。
NaSSAの方が副作用が強く、SSRIの方がマイルドです。

副作用には吐き気、自殺リスク、離脱があります。

自殺リスクというのは、若い人に高いです。抗うつ薬によって、イライラや妙な焦燥感が募って自殺のリスクを上げることがあります。
もう1つの理由として、若い人には躁うつ病の人が混じっていて、抗うつ薬を飲むことによって躁転してしまい、落ち込みがグッと上がったタイミングで自殺してしまうのではないかという点です。
だから、若い人にうつ病と診断して抗うつ薬を出すのは結構危険なのです。

また、抗うつ薬を突然やめると離脱症状が起きます。離脱症状とは手の震えや発汗といったものです。

・ECT、TMS
ECT(電気けいれん療法)は電気ショックを与えるようなもので、かなり重症の人に使う治療法です。
TMS(磁気刺激治療)は中等症以上に使います。中等症とは、抗うつ薬を試したけれど効かなかったという人です。軽い人には使いません。

・認知行動療法(CBT)、カウンセリング
認知行動療法やカウンセリングは後半の良くなってきた時期に行います。急性期や寝てばかりの時期は、かえって負担になってしまうので行いません。

脳みそは究極的にいうと無意識が治してくれます。自分で意識的に「脳にこういう考え方を持てば治る」というものではありません。うつ病は脳の病気なので、脳に刺激を与えずにゆっくり休ませた方が治りが早いのです。足を骨折した時に走ったりせずに休ませるのと同じです。

ですが、良くなってきた頃にはリハビリが必要なので、後半に認知行動療法やカウンセリング、復職訓練などを行います。

目指すところは「しなやかな思考を身につける」です。うつ病になりやすい人の病前性格は「堅真面目な人」が多いと言われています。真面目すぎて柔軟に考えられない、人に相談することのできない人がうつ病になりやすいと言われていますので、対話を通じてしなやかな思考を身につけてもらうことを目指します。

■傷病手当金

休んでいる間にお金の心配をする人も多いのですが、「傷病手当金」というものがもらえます。
健康保険(社保)に入っている人は、給料の2/3を最大で1年半もらうことができます。ですのでまずはゆっくり休んだほうが良いです。傷病手当金は会社から出るのではなく健保から出るので気兼ねなく受け取ってください。

■受診のタイミング

よく聞かれるのは受診のタイミングです。
ちょっと落ち込んでいるくらいで受診して良いのか、行ったら甘えていると思われるのではなどと聞かれるのですが、思いません。僕らは患者さんは診察室にいる時よりも家にいる時の方が調子が悪いと思って話を聞いています。

1つの目安としては、涙が自然と出たら受診してください。
自覚がないこともありますし、周りの人に受診をすすめられたら受診してみてください。

■周りの人はどうすれば?

周りの人の対応で大事なことはこの3つです。

・話を聞く
・励まさない
・特別なことをしない

話を聞いて励まさず、ただ横にいれば良いのです。

話を聞いた後に「僕も悩んだからな」などついついアドバイスしたくなりますし、「何を言ってあげたらよいのだろう」と考えて何かを言いたくなるものですが、言わなくて良い、むしろ言わないほうが良いです。価値観の押し付けになることはしない方が良いです。

相手は「脳の病気」になっている人なので、普段のその人とは状態が違います。
とても被害的になったりしますし、「こんなことで励まされている自分はダメなんだ」と罪悪感が強くなっていたりします。「そんなこと言ってないよ」と思っても、そのような病気なのです。

ですから、なるべく刺激を与えないというのが大事です。刺激を与えなければ脳は休まります。かといって何も刺激がないと不安になってしまうので、「近くにいるよ」というメッセージを伝えます。

ネット上にはうつ病に対するいろいろな情報や誤解が多すぎるのですが、何より大事なのは「正しい医療情報を理解する」ということです。

今回はうつ病について解説しました。

★noteでも書いています。「うつ病」
https://note.com/wasedamental/n/nb42ee0a3ba58

———-

うつの人が陥りがちな認知の偏り7つ!
https://youtu.be/xAzMPtYePUM

これを知らないと困るかも。うつ病・適応障害を発症してから良くなるまでの経過を解説します
https://youtu.be/pUmDelhm0PU

———-

『精神科医がこころの病気を解説するChとは?』
 一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
                  早稲田メンタルクリニック 益田裕介

『自己紹介』
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年早稲田で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス https://www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3版

#うつ病 #うつ病の治療 #うつ病の回復 #うつ状態

powered by Auto Youtube Summarize

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事