出典:EPGの番組情報
100分de名著 ドストエフスキー“カラマーゾフの兄弟”(1)過剰なる家族[解][字]
地主フョードル・カラマーゾフの三人の息子、熱血漢の長男ドミートリー、無神論者の次男イワン、修道僧の末弟アリョーシャ。ドストエフスキーがその設定に込めたものとは?
番組内容
傲慢な田舎地主フョードル・カラマーゾフの三人の息子、熱血漢の長男ドミートリー、無神論者の次男イワン、修道僧の末弟アリョーシャ。そして妾腹の子とされるスメルジャコフ。彼ら登場人物は母親の違い、性格の設定などによって人間がもっている普遍的な問題が浮かび上がるように巧妙に設計されている。第一回は、作品の基本設定を深読みし、ドストエフスキーがこの物語に仕掛けた、彼自身の人間観や世界観を浮き彫りにしていく。
出演者
【講師】名古屋外国語大学学長…亀山郁夫,【司会】伊集院光,安部みちこ,【朗読】津田寛治,【語り】加藤有生子ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)
ロシア文学を代表する名著
「カラマーゾフの兄弟」。
文豪ドストエフスキーが最後に書いた
長編小説です。
舞台は 19世紀
農奴解放後の混乱したロシア。
田舎地主 フョードル・カラマーゾフと
息子たちの愛憎劇に
作者の思想や人生が潜みます。
すごいダイナミックな構造になってる
ということ。
第1回は 19世紀ロシア社会と
ドストエフスキーの人生を
振り返りながら
小説に込められた
さまざまな視点を読み解きます。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
「100分de名著」 司会の…
今回の名著は こちらです。
ロシアの長編小説
「カラマーゾフの兄弟」です。
以前 同じドストエフスキーの
「罪と罰」を読み解きましたけれども
あれが 長編としますと
こちらは 大長編でございます。
難しすぎて 読みきれない本の代表として
僕は知ってるんで
ちょっと
びびってるんですけど。 はい。
ただ 同じような印象だった
「罪と罰」を読み解いた時
すごく楽しかった思い出があるので
そこを頼りに頑張っていきたいと。
そうですね。
今回も面白い作品ですよ。
おおっ!
指南役の先生をご紹介します。
ロシア文学者の亀山郁夫さんです。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願いします。
よろしくどうぞ。
よろしくお願いいたします。
日本を代表する
ドストエフスキー研究者の一人である
名古屋外国語大学学長
亀山郁夫さん。
新たな翻訳で 全巻累計120万部を超える
ヒットを生んだ亀山さんが
難解と言われる名著の魅力に迫ります。
さあ では
主要登場人物を見ていきましょう。
題名にある
「カラマーゾフの兄弟」というのは
田舎の地主である
この フョードル・カラマーゾフの息子たちですね。
まず 父親にあたる このフョードルですが
どんな父親と言っていいでしょうか?
アルコール依存 お金に対する執着
無類の女好きと こうきて
まあ 言ってみれば
「分別のない非常識人」って
ドストエフスキー 書いてますけどね
決して ネガティブではなくて
肯定的に描いてるところもあるんですね。
お金とか あるいは性とか
快楽に対する欲望っていうのは
まさに 命そのものですよね。
やっぱり 「裸のロシア」を描きたいという
そういう ドストエフスキーの思想が
一つ この父親の中に
大きくこう象徴されてるっていうことは
言えると思うんですね。
で 息子たちの方を見ていきますと
まず長男 ドミートリー 通称ミーチャ。
熱血漢の元将校です。
そして 次男のイワンは 無神論者。
モスクワで活躍する批評家。
ま インテリなわけです。
三男はアレクセイ 通称はアリョーシャ。
修道院に暮らす修道僧です。
母親を見ていくと
まず 長男はアデライーダの息子。
ドミートリーのお母さんの
アデライーダというのは お金持ちで
で 夫のフョードルも捨てて
駆け落ちしてしまう
そういう激しい女性なんですね。
それに対して このイワンと
アレクセイのお母さんの
ソフィアっていう女性は
私は 「おキツネさん」と
訳したんですけれども
神がかった 宗教的な女性なんですね。
つまり このドミートリーの物語と
イワン アレクセイの物語。
何か こういう2つの大きな流れがあるよ
ということをですね
ドストエフスキーは暗示したいんですね。
母親 3人 違っても
よさそうなもんだけど。 そのとおり。
そうなってないのにも
ああ なるほど
何か ありそうだっていう気は
してきますね。
そこが大事なところですね。
そして ドミートリーと
アレクセイについてはですね
ミーチャ アリョーシャって
こういうふうに
愛称形で呼ばれるんですね。
しかし イワンに対してだけは イワンの
愛称は ワーニャっていうんですが
もう 全く出てこないんです。
書いている作者と 登場人物の
親密の関係って出てくるんですね。
つまり イワンに対して
愛称形を呼ばないっていうことは
ある種の距離感を保ちたいっていうか
こう 見ていきたいっていうんですかね
対象として。
もう これだけ聞いても
かなり巧妙ですね。 そうですね。
そして
物語の中心となる大きな出来事であり
大きなキーワードが
あるんですよね。 これです。
「父殺し」。
物騒なテーマですね これまた。 はい。
これにはですね
ドストエフスキー 作者自身の
精神的な問題といいましょうか。
彼自身の人生に関わる重大な問題が
ここに反映されているんですね。
さあ では
まず 執筆当時のロシア社会と
ドストエフスキー自身の人生を
振り返っていきましょう。
農奴解放令により 皇帝を頂点とする
社会構造が大きく揺らぎ
拝金主義と犯罪が広がる時代でした。
この時代背景のもとでドストエフスキーは
自分が体験した 2つのトラウマを
「カラマーゾフの兄弟」の中に
描こうとします。
1つ目のトラウマは
18歳の時に経験した 父親の「死」です。
チェルマシニャーという村の領主だった
父 ミハイルは 農奴に対して残酷で
その子女たちにも
みだらな行為を働いていました。
彼の死は 農奴たちによる殺害という
疑いがあったのです。
ペテルブルグで学生生活を送っていた
ドストエフスキーは 父の死を知ると
激しい癲癇の発作を
起こしたという証言が残っています。
作家デビューした後
ドストエフスキーは
社会主義思想の青年たちが集まる会合に
出入りするようになります。
貧富の差がある社会を変革しようと
活動するうちに
危険分子と見なされ
28歳で 仲間と共に反逆罪で逮捕。
死刑判決が下されます。
これが 2つ目のトラウマです。
しかし 処刑直前に恩赦され
シベリアへ 4年間 流刑されました。
刑期を終えたドストエフスキーは
革命思想とは手を切り 作家活動を再開。
しかし 手紙は全て開封されるなど
皇帝権力からの干渉は
生涯にわたって続きました。
2つのトラウマが
ドストエフスキーに
「父殺し」というテーマの
小説を書かせたのです。
こちらに ドストエフスキーの人生を
簡単に まとめたものです。
これ お父様が亡くなったっていうのを
聞いて
癲癇の発作が出たって
書いてあったんですけど
亡くなったことが ショックなんですか?
多分 解放だと思いますね。
解放の方なんだ。
はい。
恐らく 父の死ということによって
経験された 一種の解放が
脳に影響したんだろうなというふうに
私は考えますね。
作品には この父の死を
反映させてるわけですよね?
そのとおりです。
この父の死というのは
この「カラマーゾフの兄弟」の
テーマにあるわけなんですが
もう一つ ドストエフスキー自身は
ロシアの父である皇帝によっても
殺されかけてるわけですよね。
そこで やはり 父殺しという問題も
こう 浮上してくる。
これが まあ
この「カラマーゾフの兄弟」の
次の物語で
書かれたかもしれないという…。
次の物語?
そうなんです。
「カラマーゾフの兄弟」は
ドストエフスキーの最後の長編小説ですよね?
実は 「著者より」という序文を読むと
第二の小説を暗示してる。
その「書かれなかった続編」ですね
これが あるんだという前提にして
「カラマーゾフの兄弟」を読み解いていくと
いろんなことが分かってくるんです。
ちょっと 何か
わくわくしてきましたね。 はい。
「著者より」と題された序文を
読んでいきましょう。
朗読は 俳優の津田寛治さんです。
うわ~ 面白い序文だなあ。
引き込まれますよね。
おさらいしていきましょうか。
今の序文で何が分かったのか。
「伝記はひとつなのに 小説がふたつある」。
「肝心なのは ふたつ目のほう」。
実は より重要な続編があるはずだった
ということが ここから読み取れますよね。
先ほど
亀山さんが おっしゃっていたとおり
続編には 2つ目のトラウマである
死刑宣告を書こうとしていたと
思っていいんでしょうか。
そうですね。
なぜかということですよね?
ええ ええ。
ドストエフスキーは
その自分のトラウマ
死刑を宣告されたという この
トラウマから生まれてくる ツァーリ
つまり 皇帝と自分との関係の中における
和解をどうしても願いたい。
その和解の物語を
第二の小説で描こうとしたと
こういう 私は仮説を立ててるんです。
さっき言ってた 豪快なお父さんが
殺されたっていう話だとすると
国と私っていう話とは ちょっと
あんま関係なく見えるじゃないですか。
はい。 このあとのお楽しみです。
重要なですね ディテールが
ポツポツポツポツ 現れてくるんですね。
さあ では亀山さんが ユニークな
独自の読み解き方法があるというので
それを
ちょっと教えて頂こうと思います。
この小説全体を通して この4つの層が
絡み合っていくわけですね。
まさに 物語のメインプロットがですね
一人の父親が殺されるミステリー
ここに大きな物語があります。
はい あらすじ。
それに対してですね
この物語を支えている
極めて歴史的に
非常に特異な現象ってあるんですね。
その 作者の歴史観とでも言ってよい
側面が書き込まれていくわけです。
と同時に 神か革命かってことを
言いましたが
それは実は この象徴層というところで
議論されていくわけなんですね。
で 最も深い それが自伝層。
つまり これは この物語と
作者の人生との関わり。
こういう すごいダイナミックな構造に
なってるということなんですが。
何々の「章」っていう分け方は
分かるんです。
でも これは「層」ってことは
同時に存在してるってことですか?
そういうことです。
ここは この歴史層が話題になってる
ここは 象徴層が話題になってる
ひょっとすると ここは
ドストエフスキー自身の
自分を 何か
語ろうとしてるんじゃないかって
そんなふうにですね
4つの層を当てはめながら
見ていくってことなんですね。
ここをきちんと頭に入れておくことが
絶対 役に立つはずです。 はい。
そうですね
この前提でいきましょう。
はい。
では 続いて本編を読んでいきます。
登場人物の紹介から始まります。
強欲で女好きな地主 フョードルは
離婚してから
3人の息子たちと別れて暮らしており
その関係は
温かいものではありませんでした。
町外れの修道院にある長老の庵で
カラマーゾフ家の面々は一堂に会します。
三男 アレクセイの師である
ゾシマ長老を含めた会合で
一家が抱える さまざまな難題の糸口を
見つけようというのです。
長男 ドミートリーが 遅れて到着すると
フョードルは
椅子の上に立って 叫びました。
フョードルは
「群盗」という戯曲に登場する
父を裏切る息子
フランツ・モールに例えて
あざけるように
ドミートリーを紹介したのです。
実は
父 フョードルと 長男 ドミートリーは
グルーシェニカという女性を争って
対立関係にありました。
加えて ドミートリーが
グルーシェニカのために
捨てようとしている婚約者
カテリーナには
次男のイワンが
強い思いを寄せていました。
そこに 財産問題が絡み
一家は 救いようのない愛憎のるつぼに
はまり込んでいたのです。
父に侮辱されたドミートリーも
声を荒げます。
まあ いきなり複雑な人間関係ですね。
フョードルの総資産
12万ルーブルとありますけれども
これは 現在の日本円にすると
どれぐらいと思ったらいいんですか?
1ルーブル 1, 000円でカウントするのが
妥当だと言われてるんですね。
ですから 1億2, 000万というふうに
考えていいと思います。
結構な資産ですね。
争いますねえ。
実は このドミートリーですが
婚約者のカテリーナから 3, 000ルーブルの
お金を横取りしてるんですね。
この3, 000ルーブルを
彼女に 返さなければいけない
ということがあります。
で そのお金が手元にはないと。
これを 父親の財産から当てにしている
ということになるわけです。
ここに 父殺しの予感というものが
生まれてくると。
まあ でも確かに
この親が 例えば死んでくれれば
誰かが得するっていう図式は もう
出来上がってますもんね。 そうですね。
先ほど あの4つの層を
お聞きしましたけれども 読み解きの。
それと キャラクターの関係を
合わせていくと どうなるんでしょうか。
いわゆる 物語層における
父殺しの問題っていうのは
このドミートリーに来るわけなんですね
中心人物が。
より レベルの高いと言いましょうか
象徴層における世界観の問題ですね。
それは アリョーシャとイワンとの間に
強烈な その葛藤がですね 生じている。
一体 象徴層における
「父」って何なのかっていう問題も
当然
出てくるわけなんですが
これについては また後ほど。
これは 次回への伏線ということで
我々も…。 はい。
更に まだ登場人物がいるんです。
カラマーゾフ家の料理人である
スメルジャコフの出自をめぐる
いきさつが語られていきます。
影の主役です。
うわあ~!
影の主役ですか。
主人公と言ってもいい。
彼 料理人ですから
非常に潔癖であることはいいんですね。
しかし それと同時に
もう非常にシニカルなんですね。
誰にも好かれないような
しかも この存在をめぐっては
この父親がですね
通りすがりの神がかりの女性に
こう まあ 生ませてしまったという
そういう噂もあるんです。
しかも このスメルジャコフが
生まれるシーン
これは カラマーゾフ家の敷地内で
生まれるんですが
これが
極めて ゴシックホラー的なですね
もう わくわく ぞくぞくするような
ディテールの描かれ方がして
スメルジャコフという存在に
いやおうなく
引き込まれてしまうところがあります。
カラマーゾフ家の料理人 スメルジャコフ誕生の
伏線として語られるのは
下男グリゴーリーと
その妻マルファの間に生まれた
六本指の赤ん坊が
生後2週間で亡くなるエピソード。
深い悲しみの中で 我が子を葬った夜
グリゴーリーを待っていたのは
奇妙な事件でした。
スメルジャコフの誕生は
グリゴーリーの心に「焼きごて」をあてたと
書かれているんですが
ロシア語で読むと
ここに スメルジャコフの未来が
暗示されているところだそうですね。
実は
この「焼きごて」を ロシア語でですね
「ペチャーチ」と
このように書いてあるんです。
で この「ペチャーチ」というのは
印刷とか
プリントのことを意味しますね。
ところが これ ず~っといくと
「去勢」という意味が
出てくるんですね。
ほ~。
この スメルジャコフという登場人物と
彼の将来
「去勢派」というのがあるんですが
それとの関わりが暗示されてると。
その潔癖症を見込んで
父親のフョードルが
そのスメルジャコフを
モスクワに料理修業に行かせるんです。
で その料理修業から
数年して 帰ってきた時にですね
非常に老け込んじゃっていて
「まるで 去勢派宗徒みたいな感じに
なっていた」と書いてあるんですね。
ちなみに この去勢派というのは
キリスト教の中でも極めて まれに
信仰という問題と お金の問題を一つに
結び付けた そうした宗派なんです。
去勢派というのは そもそも その子どもが
生まれなくなってしまいますので
国家にとっては 非常に大きな
何ていうんでしょう 脅威ですよね。
つまり 歴史層における
ある種の父殺しの問題っていうのは
ここに関わってきて 標的はロシア皇帝
というふうになっていくわけなんですね。
はあ~。
そのスメルジャコフは 父親は
フョードルなんじゃないかという
噂があるというの
ありましたけれども…。
ドストエフスキー研究者の間でも 非常に
意見の分かれるところでもあるんですね。
で スメルジャコフは
名前がパーヴェルです。
父称というのはですね
自分のお父さんの名前が
何であったかっていうことで
この場合には
フョードロヴィチですから
フョードルの息子という意味なんですね
フョードロヴィチは。
スメルジャコフというのは
嫌な臭いを発するという
「臭い男」ってなってるんです。
書かれてるようにも
思ってしまいますよね。
うん。
もう言ってるじゃんっていう。
そこなんです。
うちの中で生まれた子なんだから
俺の子じゃないにしろ
俺の名前 付けてやってもいいんじゃね
っていう 何だろう… こと?
でも カラマーゾフまで付けちゃうのは
ある意味 自分のためにも
他の3人のためにも 違うだろうっていう
感じのことなんじゃないかなという。
さすがですね。
私も そう思ってます。
よかった。
こんな門前の小僧が 先生と合ってるの
ちょっと逆に恥ずかしいわ。
入り込んできようのない
存在なんですよね。
カラマーゾフ的なものと
スメルジャコフ的なものが
2つの異なる原理として
小説全体を支配してるという
そうした可能性がある
ということなんですね。
既に たくさんのキャラクターが
出てきましたよね。
すごいですねえ はい。
まだ 三男の話が
ほとんど出てきてないんで。 そうですね。
気になっちゃってんのは 三男ですね。
さあ このあと どうなるんでしょうかね。
亀山さん ありがとうございました。
次回も よろしくお願いします。
♬~
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