こんなに若者が自ら死を選ぶ国は、先進国といわれるなかでも日本だけ、フィリピンで考える

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(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 今年に入って、いわゆる芸能人の自殺が目立っている。

 つい先日までの猛暑が嘘のように涼しさを増した9月最後の日曜日の朝に、メディアが一斉に速報したのは、女優の竹内結子の自殺だった。報道によると、27日未明に渋谷区の自宅マンションのクローゼット内でぐったりしているところを夫が見つけ、119番通報した。首つり自殺を図ったと見られている。40歳だった。

 その2週間前の9月14日には、女優の芦名星が新宿区の自宅マンションで自殺。36歳だった。視聴率を稼ぎ、20年近く放送の続くテレビドラマ『相棒』シリーズに準レギュラーで出演もしていた。

 さらにその2カ月前。7月18日には、俳優の三浦春馬が30歳の若さで自ら命を絶っている。やはり今月20日に都内の自宅で自殺した俳優の藤木孝(享年80歳)と芦名と過去にドラマで共演していたことや、竹内と映画での共演もあったことから、そこに奇妙な因果関係を見出したがる報道もある。

 さらに遡れば、フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた22歳の女子プロレスラーの木村花が、5月23日に自殺している。正式な発表はないが、同番組での出演者とのやりとりを巡るSNS上での誹謗中傷が原因であるとされ、今月になってBPO(放送倫理・番組向上機構)の審理入りが決まった。

 華やかに映る芸能界の裏側で、みんななにかに悩んでいた。そのギャップに多くの一般視聴者は驚き、そこに“心の闇”があった、などと使い古された曖昧な言葉で絡め取って、どこか落ち着かせようとする、そんな記事原稿も少なくない。

 はたまた、新型コロナウイルスの蔓延による影響を説く、いわゆる自殺に関する専門家と呼ばれる連中の声もある。不要不急の外出の自粛が叫ばれ、人との接点も減った。俳優であれば、撮影や舞台の出演も先送りになったり、中止になったりする。ともすれば収入にも影響が及ぶ。いままでと違う日常。それだけでもストレスなのに、親しい人とも疎遠になって、心の内を聞いてもらえることもなくなった。それが自殺に結びついている。そういう見立てだ。

 だが、問題はそんな単純なものはではない。ここに現れているのは、“日本の闇”そのものである。

■ 若者の死因トップが「自殺」である日本

 厚生労働省は今月、昨年2019年の「人口動態統計」を公表している。

 そこで驚かされるのは、15歳から39歳までの死因の第1位がいずれも「自殺」であるとだ。5歳ごとの年齢階級別に表示される死因の順位を見るとわかる。2人に1人がなるとされる「がん」よりも多い。しかも、10歳から14歳まででは、「自殺」が死因の第2位を占め、2017年には同年齢階級の第1位になっている。

 さらには、昨年の統計で40歳から49歳までの死因の第1位は「がん」だが、第2位は「自殺」となる。50歳から54歳まででは「自殺」が第3位、55歳から59歳までで第4位、60歳から64歳までで第5位に位置する。

 国内の日本人の自殺者数は、3万2000人を超えた2003年をピークに、年々減少傾向にある。ところが、20代、30代の死因の第1位が「自殺」である傾向は、もう20年以上変わらないで推移しているのだ。

 こんな国はない。こんなに若者が自ら死を選ぶ国は、先進国といわれるなかでも日本だけだ。

 この事情は、国会議員の間でも問題視するところで、自殺問題に関する超党派の議員連盟もある。それでもこの傾向は変わらない。

 米国、中国に次ぐ世界第3位の経済大国でありながら、若者にとっては生きづらい国であることを統計が示している。

 相次ぐ芸能人の自殺の年齢層を見ても、この事情に当てはまっている。

 もともとこの国は、同年齢層の自殺者が多いという異様な傾向にあって、それが芸能人の自殺報道の多発で浮き彫りになって来た、と受けとめるべきだ。いまのところ、コロナ・ストレスと自殺を関連づけるものは、なにもない。

 仮に、新型コロナウイルスの影響が出ているのだとすると、来年に報告される自殺者の数は、20代、30代に限らず全体的に増えてくるはずだ。それも「新型コロナ関連死」であって、本来の20代、30代の自殺の多さを解決するものにはならない。

■ 「生きづらさ」を感じた時は

 若者を自殺に追い込むもの。生きづらさ。長年続く傾向とその要因については、社会全体として包括的な議論が必要になってくるだろう。格差社会、貧困もそのひとつかも知れない。

 むしろ、そうした事実と向き合って来なかったこの国の政治のほうが異常と言える。

 ただ、著名人の自殺報道が相次ぐと、そこから連鎖も起きやすい。

 そんな時の為に――。

 置かれた環境の生きづらさから、自殺を考えたとき、この国は若者の自殺が多いこと、そんな客観的な事実から、生きづらいのは自分ばかりではないことを、再認識して欲しい。ひょっとしたら、隣にいる人もいまの生きづらさに、もがき苦しんでいるかも知れない。その可能性の高さは、統計が示す通りだ。だったら、ひとりで思い悩んでいることを、誰かに打ち明けてみる。どうせみんな生きづらいと感じているのだから。そう思いなおすことも、時として重要なことだ。

 そんなことを、一瞬でいいから思い起こして欲しい、と切に願う。

青沼 陽一郎

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