大矢根聡 同志社大学教授 「TPP」⑤ 2016.2.2

Satoshi Oyane, Professor, Doshisha University
同志社大学の大矢根聡教授が「TPPの政治学-政治家の言葉と外交の視点から」というテーマで話し、記者の質問に答えた。
司会 軽部謙介 日本記者クラブ企画委員(時事通信)
http://www.jnpc.or.jp/activities/news...

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記者による会見リポート

経済交渉で「対立軸の変化」

堅いテーマではあったが、経済交渉をめぐる日本国内の潮流の変化を、独特の分析で紹介してくれた。

着目したのは政治家の言説。国会での演説や質疑の議事録を活用し、TPPをめぐる論戦でどのような単語や表現が用いられているのかを検証した。

その結果分かってきたのは、貿易の自由化をめぐるこれまでにない傾向だ。

農業人口の減少や農林族議員のパワー低下などから考えれば、TPPへの懸念表明は少なくなっていいはず。しかし、政治家の発した言葉としては相変わらず「農業への打撃」といった表現がこの交渉に対する否定的な意思表示の中で最多を占めた。

なぜなのか。大矢根教授によれば、「食の安全」など、これまでの経済交渉とは違った角度からの論議が多かったことが考えられるという。つまり、農業分野に従事しない人々が農業保護を主張している、個別の利害関係とは切り離された形で交渉を考えている、というわけだ。

「産業分野ごとの個別利害ではなく、自分の損得には直結しないが心配だという声が強くなっている」と教授はみる。

農業保護が、農家や族議員のアイテムから、社会全体の関心事になり、「自由貿易vs保護・管理貿易」という割り切りでは収まらなくなった。「対立の軸の変化」だ。

もうひとつ、TPPをめぐる国会の議論で目立ったのは「地域ルールづくり」という表現だった。この言葉の先には、中国とどのように対峙するのかという問題意識がある。「中国がTPP交渉の隠れた主役」と言われたゆえんだ。

教授は米国の対中政策について「まずTPPでは中国を排除する。そのあと中国を入れる」戦術とみる。「その方が中国国内に自由化を浸透させる効果が大きいから」。その上で教授は、中国に安心感を与える必要を説き、「次のメンバー拡大(のタイミング)に意味がある」と結論付けていた。

企画委員 時事通信社解説委員長
軽部 謙介

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