認知症の妻へ「キャラ弁」介護食 毎朝欠かさず作る夫「不思議と完食してくれる」 半世紀ともにする夫婦 (21/06/26 13:00)

妻のために毎日、介護食の「キャラクター弁当」を作る男性がいます。認知症の妻は、今では食事も会話もままなりません。それでも不思議なことに、このお弁当だけはいつも完食してくれるそうです。半世紀連れ添った、ある夫婦の物語です。

 愛知県大府市で暮らす鳥飼憲一さん(74)は毎日欠かさずに、午前6時に台所に立ちます。
 
 慣れた手つきで包丁を持ち、食パンを切り分けていきます。

 作っているのは、かわいらしい女性の顔。

 赤いジャムで目元の化粧を再現し、洋服は小さく切ったリンゴです。

 つやのある黒豆で作った瞳が印象的な女性の顔は、やさしい表情をしています。

 「目は丹波の黒豆。ブルーベリーとか色々試したけれど、これが一番輝きもあるし」と憲一さんは話します。

 30分ほどで完成したこのキャラ弁を食べるのは、妻の美津代さん(72)。

 8年前に認知症と診断されました。

 今では食事や会話もままならなくなっています。

 食事は、憲一さんがスプーンでとり美津代さんの口元へ運び食べさせます。

 「おいしいね」と憲一さんが呼びかけても、返事は返ってきません。

 それでも、美津代さんの表情が少し緩んだように見えました。

 不思議なことに、憲一さんが作るキャラ弁は、いつも完食してくれるといいます。

8年前に認知症と診断された妻、介護する夫

 同じ熊本県出身だった憲一さんと美津代さんが名古屋の街で出会い、結婚したのは47年前。

 その後、息子2人を育て上げました。

 息子たちが手を離れ、美津代さんが60歳を過ぎたころから日常生活に少しずつ異変が表れます。

 「買い物に行っても、何を買えばいいか分からないと言っていた。女の人はいろいろ選ぶのに時間がかかるんだな、くらいに思っていたのですが」

 美津代さんが64歳の時、認知症と診断されました。

 それまで料理もほとんどしなかったという憲一さん。

 仕事を辞め、家事はもちろん食事の介助からトイレの世話まで、美津代さんの介護を担ってきました。

 しかし、症状が進んだ美津代さんの食は細くなり、体重も減っていきました。

 何とか食べてもらおうと、約1年前から作り始めたのがキャラ弁でした。

 ゼリー状に固めた栄養剤をカップの器に盛り、飲み込みやすいように小さく切った食材を並べて絵を描く―。

 美津代さんはすぐに完食し、そして笑ってくれました。

キャラ弁の名前は『ラブカップ』

 花や動物、景色を描いたこともありますが、一番喜んでくれたのは女性の顔でした。

 「ちょっとでも笑顔になってほしいと思って。(キャラ弁を)ラブカップって勝手に名づけたんだけど…」と、照れくさそうに憲一さんは振り返ります。

手をつないで、息抜きの場へ

 そんな憲一さんの息抜きの場にもなっているのが、愛知県東海市のとあるカフェです。

 手をつないでカフェに入る2人を出迎えるのは、同じように認知症の家族を支える人たちです。

 認知症の相談ができるこのカフェを、憲一さんは週に一度訪れ、年齢も近く同じ境遇の人たちとおしゃべりを楽しみます。

 「徘徊はしない?」「前は13kmも先まで」「よーく歩くもんね。ウチもそう」「元気だわね~」

 そんな会話を、美津代さんも楽しそうに聞いています。

半世紀連れ添った夫婦の物語は続く

 介護を始めてすでに8年半。

 毎日の大変さは変わりませんが、それでも「今はさほど苦にならない」と話します。

 「症状に合わせてやっていくしかないから。穏やかに一緒に、これからも暮らしていきたい。それで十分」

 そう話す憲一さんの隣で、美津代さんは何も言わないまま、満足そうな笑顔を浮かべていました。

 キャラ弁に描かれた、かわいらしい女性のように。

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