ロシア“大量虐殺”は作戦?その目的は・・・専門家解説(2022年4月5日)

ウクライナの首都キーウ近郊の街ブチャでは、これまでに300人以上の市民が殺害されたとみられています。さらに、キーウの北西に位置するボロディアンカなどで、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍による死者がもっといる可能性がある」と話しています。

日々、明らかになるロシアの残虐な行為に、国際社会は有効な手立てを講じることができるのでしょうか。

◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.国際社会から非難を受けることは分かっているはずですが、それでも残虐な行為を行うのはなぜでしょうか)

兵頭慎治さん:「ロシア軍が撤退する際にこういった残虐行為をしたと思っていたのですが、侵攻した早い段階でやっていた可能性があるということです。ロシアがなぜここまでやらなければいけないのか、その真意をはかりかねています。今までは、ゼレンスキー政権に圧力を加えるという説明をしていましたが、ここまでのレベルになると、それだけでは十分説明がつかない。ウクライナに対して徹底的にやり抜く強い意志がないと、ここまでできないと思います。

他の場所でも行われている可能性があるということで、ロシア軍が侵攻している別の地域でも、侵攻の当初から同じようなことが行われているのではないかと危ぐしています。ロシアの正規軍がここまでできるのかという疑問もあって、根拠はありませんが、チェチェンの民兵や外国の傭兵などが関与した可能性も排除されないと思います」

(Q.複数の地域にまたがる規模の残虐行為が行われたとなると、兵士個人の行動ではなく、ロシア軍の作戦とみていいですか)

兵頭慎治さん:「現場が暴走してこのレベルの行為をやるのは考えにくいです。組織的で計画的な動きではないかと思わざるを得ない部分があります。これだけのことをやると、国際社会から非難を受け、政治的な問題になることは分かっているはずなので、現場の判断というよりも、モスクワの高いレベルで指示がないとこれだけのことはできないと思います。ただ、プーチン大統領が指示を出したかどうかは、今の時点では断言できません」

◆ニューヨーク支局の中丸徹支局長に聞きます。

(Q.ロシア軍によるとみられる残虐な行為をアメリカ国民はどうみているのでしょうか)

中丸徹支局長:「これまで届いていた映像というのは、ミサイルなどで街が破壊されていくというものでしたが、今回、ロシア軍が撤退した地域を取り戻したことによって、長い間、そこで何が行われていたのか、生々しい映像を認識することなり、アメリカ社会はショックを受けています。メディアは『この虐殺は、ロシアのウクライナ侵攻の厳しいターニングポイントになった。世界は力強く対抗すべきだ』としています。『ロシアの孤立を強める』と、戦争犯罪に対する糾弾はさらに強まっていくだろうと、厳しい論調が続いています。

先週時点の世論調査ですが、3分の2の国民が直接的な軍事介入には否定的ですが、8割近い人は、経済制裁強化やウクライナへの武器支援に対して賛成で、世論は高まっています。当然、ブチャでの事件を受けて、世論はさらに高まるものとみられます。

バイデン大統領は、プーチン大統領を「戦争犯罪人」と厳しく糾弾したうえで、さらなる経済制裁を約束しました。また、ロシアの産業界にダメージを与える制裁を検討されているのではないかということです」

(Q.国連では、ブチャでの件を受け、安保理緊急会合が開かれるということですが、アメリカはどのような主張をするのでしょうか)

中丸徹支局長:「アメリカは、今後のウクライナの戦況について、厳しい認識を持っています。ロシアが来るべき停戦交渉に向けて、より多くを勝ち取るために、ウクライナ東部を中心に攻撃を仕掛けて、戦況が長期化するのではないかという見立てがあるようです。その意味を込めて、国連を含め、アメリカ政府が狙っているのは、ロシアのさらなる孤立です。会合で、ゼレンスキー大統領が演説を行うことになっています。国際世論の空気を高め、主にロシアに対して融和的な態度を見せている国に対して、圧力を高めたい考えです」

◆金指光宏パリ支局長に聞きます。

(Q.フランスやEUの受け止めはどうでしょうか)

金指光宏パリ支局長:「フランスでも『残虐非道な行為だ』として、大きなショックをもって受け止められています。マクロン大統領も『戦争犯罪なのは明らかだ」と強く批判しています。今回の虐殺を受け、フランス、ドイツ、イタリアは、ロシア外交官の国外追放を決めました。措置は、それだけにとどまりません。フランスメディアは『ブチャでの虐殺が、ヨーロッパのロシアへの対応の転換点になる』と指摘しています。ヨーロッパは、ロシアからのエネルギー依存が非常に高く、これまでの制裁には、エネルギーの輸入禁止は含まれていませんでした。しかし、今回、そこにも踏み込んで、制裁の新たな段階にいこうとしています」

(Q.これまでロシアへの対応が分かれていたEU各国で足並みは揃いそうですか)

金指光宏パリ支局長:「今回は素早くまとまるとみられます。フランス、ドイツの外相が『新たな制裁に石炭の禁輸が含まれる』と述べました。制裁までに時間が経てば経つほど、ブチャの惨劇に対する厳しい姿勢を示すという意味が薄れてしまうということ。そして、時間が経つほど、ヨーロッパの足並みの乱れがロシアに見透かされてしまう恐れがあります。ヨーロッパには差があり、すでにガス輸入停止をしているリトアニアなどもあれば、オーストリアのように『制裁をする側が、制裁を受ける国よりもダメージが大きい』として慎重な国もあります。そういうなかで、まず、石炭の禁輸という合意できるところで合意して、いち早く厳しい姿勢を示すという狙いがあるとみられます」

◆防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。

(Q.新たな制裁の動きが出てきていますが、プーチン大統領へのダメージになりそうですか)

兵頭慎治さん:「フランス・ドイツが石炭の禁輸に踏み切る可能性があるということですが、この後、天然ガスの禁輸に踏み込むことができるかどうか。こうなると、ロシアにとって極めて大きなダメージになりますし、ヨーロッパにとって制裁の最後の切り札を切ることになると思います。

今回、これだけの残虐行為をしていたことが明らかになったので、ロシア軍が今後、戦闘が激化する東部ドンバス地方で生物・化学兵器を使用するハードルが低いのではないかという見方をせざるを得ません。東部・南東部全体のロシア側の戦闘がどこまで激化していくのかを懸念しています」

(Q.天然ガスの禁輸は最後の一手になりますか)

兵頭慎治さん:「ヨーロッパからすると最後の切り札になるので、今ここで切るのかと。さらなる戦闘の激化、次のフェーズも予想されるので、ロシアからすると、ヨーロッパがどのタイミングで天然ガスの禁輸に踏み切るかに注目していると思います」

インタファクス通信によりますと、ロシア側代表団のルデンコ外務次官は5日、ウクライナとの停戦協議がオンライン形式で継続していると発表しました。ただ、焦点となっているウクライナの安全を保証する国の選定などは進んでいないとしていて、両国の外相会談の開催も「時期尚早だ」とコメントしています。

(Q.残虐行為は停戦協議にどんな影響を与えると思いますか)

兵頭慎治さん:「否定的な影響を与える可能性は否定できないと思います。ゼレンスキー大統領も「協議は続ける以外ない」と発言していますが、強い怒りをもってロシアに臨むことになります。当然、交渉の中身にも影響が出てくるだろうと思います。ウクライナ側が提案していた安全保障の新たな枠組みは、欧米諸国が加わることになるので、国際社会で衝撃が広がるなか、前向きな議論ができるかどうか心配です。

ロシアとしては停戦協議も続けますが、5月9日の勝利宣言に向けてドンバス地方を是が非でも抑えるため、手段を選ばずに軍事攻撃をやっていく可能性もあります。それが停戦協議に悪影響を与える可能性もあるとみています」

(Q.国連では安全保障理事会の緊急会合が開かれますが、国際社会がプーチン大統領を止める手立ては見えてきますか)

兵頭慎治さん:「ロシアによる軍事侵攻以降、欧米諸国は度重なる経済制裁を加えてきましたが、結果的に残虐行為を防ぐことができませんでした。この先、激化するロシアの軍事攻撃を防ぐ手立ては見当たらないところです」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp

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